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ソドム・パラノイア  作者: Y
グッバイ、ソドム
298/301

274:人は罪悪感で生きていている

 選ばなかったこと、選べなかったこと。どちらにせよ不平不満を言っても仕方がない。


「あああああああああああああああああああああ」


 私が今、狂姫(きょうき)さんを殺しちゃったことはどう嘆けばいい?


「あああああああああああああああああああああ、止めれなかった、止まれなかったの! ごめ……」


 言いかけてやめる。謝って赦されることじゃないから、そうでしょう? 餓鬼め。


「何を泣いているのかしら? せっかく化物になったのに、ほんと子どもですわね」

「え?」


 あれ? 私、狂姫(きょうき)さんの頭……ぐちゃぐちゃにしたはず……。


「コード404を利用した完全再生の均等化。これがこれからの世界ですわ。まぁわたくしは、いち早くダウンロードしましたから――――要するに、あなたが見ているのは()()()()()()()()()()()というわけですのよ」

「あの……」

「世界はもうすぐ死ねなくなる。そして、死ねないまま感情を失う。それがどのくらい恐ろしいことか、馬鹿のあなたにも想像できますわよね?」


 ゾンビ……みたいな世界。いや、世界そのものがゾンビになってしまうのだろうか?


「どうしてそんなことができちゃうの? 無茶苦茶だよ」

 

 無茶苦茶すぎる。私達の選択肢はどこにあるんだ?

 

「この世はもう随分と前から、完全な支配をされているんですのよ。もうとっくに、世界はバベルのもの」

「じゃ、じゃあ私が、私達があがいている理由は」


 理不尽。そんな言葉が頭をよぎる。


「生きているから、それだけですわ。生きているからあがいてしまう。死すら失われつつあるこの世界では、生きるしかないですもの」

「そんなんじゃ……罪悪感が消せないよ」

「ええ。まぁでも、人は罪悪感で生きていているようなものですし、変わらないと言えば変わらないですわね。で、あなたはどうするんですの? このままただ生き続けるか、それとも自分の意志で生きようとするか」


 何この訳のわからない話。


「ねぇ、狂姫(きょうき)さん……」

「なにかしら?」

「私、大切な人がいたの」

「博士ですわね?」


 多分、そう。いや、きっとそう。まだ完全に思い出せてはいないけど。


「その人はカメラが好きで」

「わたくしも好きですわ」


 なんだ思い出せてるじゃん。


「私は、カメラに興味がなくて」

「ええ、そうでしたわね」


 少しづつ、思い出す。過去の景色、風景、情景。


「もらったカメラをどっかやっちゃって……」

「あなたはそういう子ですもの。意外と人の気持ちがわからないというか、なんというか」

「感情が無くなったら、それを後悔することも謝ることも、また博士と、博士と暮らすこともできないんだよね?」


 そうだ、私は……。


「ねぇ、狂姫(きょうき)さん教えて。博士はなんで、なにをしようとしてるの? 一人で、一人で一体なにをしようとしているの?」

「あの人は、世界を変えないために動いている。感情を守ろうと――――ね」

「どうして!」


 狂姫(きょうき)さんが唐突に、優しく私の頭をなでた。


「きっと、カメラを楽しみたいのでしょうね。感情がなければ、写真は撮れない」

「私は……」

「さっきあなたは、博士は一人でと言ったけれどそれは違いますわ。あの人のプランには、あなたが入っている。つまりあなたが進まなければ、世界は救われない。最初から博士は、あなたと二人で世界を守るつもりだったんですのよ」

「……うひひ」


 思わず笑ってしまった、なんだかすごく嬉しくて。


「私、生きてる意味あるじゃん」

「ええ。おおありですわ。よろしくたのみますわよ? わたくしだって、感情を失いたくないんですからね。大事な人もいますし」


 私は確信した、いや、思い出した。私にとっていちばん大切なのは、唯一大切なのは博士だって。その博士が世界を救うヒーローになろうとしているなら、私もなろう。一緒に犠牲を積み上げてでも。


『おまえは不思議の国のアリスの代替品ではないのだよ、見てみろその両腕を。アリスにはないおまえだけの、私の腕だ』


 うひひ、博士がなにをしているかは馬鹿な私にはわからないけど……私の役目はわかったよ。アリスを、ぶっ飛ばすんだ。

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