272:終わりかけの物語
私は強かった、驚くほどに。力も、心も。相手が動けなくなるまで殴り続けること……全然平気だったから。
「痛い……のだ……」
「ねぇ、狂姫さん。私ってなんなの?」
聞きたくもなる。
「世界の中枢に一番近い部外者ですわ。馬鹿にも分かるように言い換えるならば、あなたならこの世界を変えることができるかもしれない」
「どういうこと? 意味がわからないんだけど」
ゾワゾワと体の中でなにかが動く。ああ、なんかすっごく真っ黒な気分だ。
「あれ……」
景色から色が……消えた? 全部がモノクロだ。
「もうわたくしが教えることはないですわね。さ、バベルに向かいなさい」
「リリールを助けなきゃ」
吐き出した言葉は、これから来る未来を受け入れたくないから? 私……リリールのこと本当に助けたいって思ってるのかな?
「友達を選ぶ。そういうの嫌いじゃないですわよ」
「えっと、そういうのじゃ……」
私、今否定したいと思ってる?
「リリールは昨日、ある村に移送されましたわ。バベル派の重要拠点、村の指導者の名前はコヨーテ。これだけ情報があれば、今のあなたなら充分ですわよね?」
「どうして……そんなこと調べてたの?」
私がリリールのこと助けると言い出すって、知ってたみたいな。
「脇役も必死なんですわ。自分が自分であるために」
「私を利用して、感情をなくそうとするバベルを倒そうとしてるんだ」
「あら、まるで子どもみたいな言い方しますわね。まぁ、その通りですわよ。あなたも嫌ですわよね? わけがわからないまま終わるのは」
突き進んだら、わけがわかるのだろうか?
「世界さえ滅亡しなければ、あなたみたいな強者は何度もやり直せますわ。ただ、感情が終わればあなたみたいなタイプはまっさきに、なんでもないものになってしまいますわね」
「意味、わかんないんだけど」
「悪意を向ける相手が違いますわよ?」
なんかいらいらする……この人を一回くらい倒しても、いいんじゃないかなって。
「やめといたほうがいいですわよ? 今のあなたではわたくしにはまだ勝てない。感情を燃やして、もっと強さを思い出すことね。あなたにとっての一番の感情を」
「もう、なんなの!」
おもいっきり殴りかかった。それこそ、感情的に。
「げほっ、げほっ」
「だから、勝てないと言いましたわよね? さ、コヨーテのところに行ってくださいまし。せっかく調べてあげたんですから、お友達を助けてあげなさい」
リリールを助ける。きっとそれは、私の言い訳だ。だって私はあんな危ない子、助けたくもないから。でも、友達を助ける自分でありたかった。どうでもいいって思ってしまったからこそ、助けに行かないと私はおかしくなってしまいそうだった。
ねぇ、誰か私の話を……聞いてよ。




