270:誰かの都合
虐殺の愛……じゃなくてラヴちゃんの話は、意味わからなかったけど、なんとなくわかった。
「えっとラヴちゃんはさ、バベルを崩したいの?」
「ええ。あんなものがあるからいけないんですよぉ。私達はあれに、完全監視されていますからねぇ」
敬語は使うな。ラヴちゃんと呼べ。そんなよくわからない制約をつけられて聞かされた、バベルのこと――――全人類の監視と、記憶の操作。そんな話を聞けば、正しいのは反バベル派だって思ってしまう……。トランプ持ちがニカとリリールにさせたこと……酷かったし。
「他人の記憶を勝手に消したバベル。今度は何を消そうとしているかわかりますぅ?」
「えっと……」
ふと思う。消された記憶がつらいものだったら、私達はむしろ幸せなんじゃないだろうか。
「あ、もしかして、感情……」
「正解ですぅ! さすが、バベルの頂上まで行ったことのあるソドムですねぇ」
「えっ、私が?」
驚いてみたけど、実際はそこまで驚かなかった。だってさ、もうなんか流れ的に、私って世界の大事に関係ありありなんでしょ感すっごいあるんだもん……。
「感情の完全消去。これは簡単じゃないみたいでぇ、あと数年かかるとみているんですけどぉ――」
「感情……か」
私が苦しかったこと、ニカが私を苦しめていたこと、リリールがおかしくなってしまったこと。そう考えると、感情なんてないほうが良いのかもしれない。
「バベルのしようとしていることは、悪だと思いますかぁ?」
「……わかんない。でも……」
でも、なんだろう。
「少なくとも、アミさんはそう思ってるみたいですよぉ。カメラを楽しみたいから、感情は消さないでほしいって」
「アミさん……あのっ、アミさんって一体――」
「あなたにとっていちばん大切な人ですよぉ。メメメスさんは一時的にあなたを保護していただけの脇役、でもアミ……いいえ、博士は本当に大切な大切な人ですぅ。あなたにとってはね」
「メメメス……さん」
思い返せばわかる。私はメメメスさんより、守って育ててくれたメメメスさんよりもずっと、アミさんのことが好きだった。でもその好きもなんだか遠い感じで、今すぐ会いたいってわけでもなくて。なんていうか、ラヴちゃん達が保護してくれてよかったなって感じで……。
「あの、今博士って言ったのは」
「ええ。通称ですねぇ。私もあの人も、みんなラヴクライン。名前が同じなので区別しないといけないんですぅ。わかりますか、クローン」
「あ、だからラヴちゃん。自分だけ――あ、なんでもないです!」
二人ともラヴクラインって名前なら、自分だけラヴちゃんって名乗るのはちょっとズルいんじゃないかなって思っちゃったよ。
「で、今回はどうしたいですぅ、あなたは」
「えっと……できれば……」
「関わりたくない? それはだめですぅ」
「いや、そういうわけじゃないんだけど……」
私は今、なんて言おうとしたのかな。
「戦ったらどうですか? とりあえずぅ」
「私弱いですし……っていうか、とりあえずで戦っていいものなんですか?」
思わず敬語。
「戦いなんて、話し合いができない者達のとりあえずですよぉ。それに心配しなくても大丈夫ですぅ、あなたは強い、超強い! 狂姫よりもずっと! なんと、世界二位ですからぁ!」
「は?」
今のリアクションはさすがに態度悪かったかな。でもこんなタイミングで冗談言うなんてさ…………あれ? 私、こんなヤバい(であろう)人と話してるのに全然怖がってない? まさか、私本当に世界二位?
「信じてませんね?」
「だって、世界二位とか。一位は誰なんですか? 二位だったら絶対一位の人が絡んできたりしますよね?」
「絡まれる? 勝手な理屈ですねぇ。でもまぁ、当たらずしも遠からず。一位はあなたがボッコボコにしたのでぇ、まだ出てこれませんよぉ。その間に、私達はバベルを落としたいんですぅ」
私がボッコボコにしたならさ、私が一位なんじゃないの?
「バベルを落とす……」
「ええ。具体的には主要人物の排除。今の時代は個の戦闘力が際立ちすぎていますからぁ、主要人物を殺せばなんとかなっちゃうんですよぉ」
「主要人物……何人いるの?」
「五十二人。だからトランプ持ちなんですよぉ。まぁ無地のトランプをもった雑兵もたくさんいますけどぉ、そのへんはこっちも同じなのでぇ。強者は強者を狙えば、それでオッケーなんですぅ」
んんん……多くない? 主要人物。




