264:ポートレート・ニカ
あの後、私はベッドと小さなテーブルしかない部屋にいるように言われた。あ、一応トイレはついてるね。
「はぁ」
一日目、シャワーを浴びたかった。
「はぁ」
二日目、シャワーを浴びたかった。
「……」
三日目、もういいかなシャワーは……なんて気分になった。いろいろ考えないといけないのに、ボーッとしてしまって、運んできてもらうご飯を食べる以外は別になにも……ああ、あと思い出したように行くトイレと……くらいしかできないんだ。なんだか今嘆いたりすると、この後余計につらい思いをする気がして。
「カメラを持ってついてきなさい。望遠レンズは必要ないかな、被写体には寄れるから」
「はい」
呼び出された四日目――行き先は……。
「ニカ……」
「その声……ソドム……にゃ?」
目の高さでぐるぐるに包帯を巻いていて。(血が滲んでいる。)そっか、今度はこれを撮れっていうことですね。
「ソドム、外してほしいにゃ…………いろんなところが痒いんだにゃ……」
ベッドに縛りつけるためのベルト……なるほど、この部屋はこういうことのために用意されてるのか。なら、顔だけじゃなくベッド全体が写るように撮ったほうがいいかな?
「ごめんねニカ、私外す権限ないから」
「……そうかにゃ」
権限がないなんて、言われてないけど。
「写真、撮らせてもらうね。それが私の仕事だから」
「…………わかったにゃ」
ニカはどうして、こんな撮影を受け入れているんだろう。まぁ、拒否なんてできないだろうけど……なんで、こんなにも受け入れているんだろう。(仕事だから、って言ったのは心を少しでも楽にするため?)あれ? ニカ……? ニカだねここにいるの。うん、赤い目はなくなっちゃったけど……ニカだよここにいるのはさ。
「生きてたんだ……ね。よかった。ごめんね」
「…………仕方ないにゃ。仕掛けたのはニカだし……。目が治るまでの我慢にゃ……」
「そっか。早く治るといいね」
私、もしかして今「ソドムが謝ることじゃないにゃ」という返答を……期待してた? うん、こんなこと思っちゃう時点で、期待してたね……。私……最低だ。(最も低いという評価をすることは、おこがましいのだろうか?)
「よし、そのくらいでいいだろう」
「はい」
ずっと黙って背後に立ち続けていた兵隊さんがそう言ったから、私はニカの部屋を出ていくことになった。
「ソドム」
「なに? ニカ」
「また……来てにゃ」
「うん」
今までの人生で、もっとも自信のない「うん」だったと思う。
「次は――」
「リリールの撮影ですか?」
「そうだ。いいことだ、自分のやるべきことをちゃんと理解しているというのは」
反吐が出る。なんて言葉が私の頭をよぎったけど、それは多分、自分を肯定したいだけ。(或いは否定したくないだけ。)




