263:写真を撮りなさい
リリールはニカの目を二つとも抉り、握りつぶした。あれ? 目って再生するんだっけ? 確か、時間かかるけどするんだよね。(こんなことで、ああ、もっと、ちゃんと、勉強しておけば良かったって思うなんて。)
「リリール! もうやめて! もうやめて!」
「この糞猫! 私に、私に恥ずかしい思いをっ! させやがって!」
頭ばっかり蹴ってる。リリールは、殺す気だ。
「リリール!」
「うるさいわね! 元はと言えばあんたが原因でしょ!」
「え?」
「あ……」
手が、止まった。ニカ……動かないな……生きてるのかな……。
「い、今のは、う、嘘よ! 勢いでつい言っただけで……そんなこと思ってないわ……」
「こ、来ないで」
「私は、あんたのことを思って」
「来ないで!」
リリール、どうしてそんなに私を見つめるの? なんか怖いよ……。
「私はあんたのことを思って……思ってるのに!」
「リリール?」
ガンガンガン、リリールが自分の頭を壁に打ちつけはじめる。何度も何度もガンガンガン。
「や、やめよリリール……私怒ったりしてないから」
「ソドム、ソドムソドムソドムっ……あなたは私を赦してくれるの?」
聞こえてたよね? なんで聞こえてるのに何回も頭ぶつけてから振り向いたの? 話が聞けるならさ、そんなことやめてよ。
「許すとかそういうのじゃなくて、そもそも怒ってなんて――」
「ならやっぱりだめじゃない!」
え、意味わからないよ。ねぇ、なんでそんなにガンガンガンガン。
「やめてよ! ねぇ、リリール!」
「よし、そこまでだ」
光? 扉が開いた? あ……兵隊さんが来てくれ……来てくれ?
「止めてください! リリールがっ! リリールが!」
今、優先するべきことを吐かないと。余計なこと考えてたらだめ。だって、まだガンガンガンガン――――。
「ああ、助けてあげよう。もうしばらく後でね」
「なに言ってるんですか? 早く助けないと、リリールが!」
本当に、なに言ってるんですか?
「君は写真を撮るんだ。カメラを持ってきてるだろ?」
「なに、言ってるんですか?」
ガンガンガンガン、音はやまない。そりゃそうだよね、誰も止めないんだもん。
「ほら。君が写真を撮らないと、我々は助けることができないよ?」
「え、え……なら、なら撮ります!」
なに、言って……いや、そんなことは後! 後! 今はなにをしても助けてもらわないと! そうだ、私の鞄どこだろ……あ、あった。カメラ……壊れてないね……。よし!
「しっかり写すんだよ」
「う……」
ファインダーを覗いたら、リリールの目がよく見えた。すごく見開いた目が。(リリールがこっちを見た。だから私は、その瞳からピントをずらしてシャッターをきった。)
「もう一人も撮影してあげるといい」
「ニカ……」
「やはり素晴らしいね君は、こんな時でもカメラを操作できるくらいには、冷静さを保っている。採用したかいがあったよ」
レンズを通して見える、ボロボロのニカ。空っぽの目の穴に血があんなに溜まって……。
「よし、しっかり撮影したね。お疲れ様。ここからは我々の仕事だ、君は休んでいるといい。ああ、ここからは先は撮影したらだめだよ?」
あれは本当に助けてるのだろうか、頭をぶつけるのをやめないリリールを無理矢理押さえつけて……。




