262:理不尽
扉の下の隙間から、一枚のトランプが差し込まれたことに一番最初に気がついたのはニカだった。
「……な、なんにゃこれ」
「え……」
トランプをめくると、そこには数字も絵柄もなく。ただ赤い字で、こう書かれていた。
『トランプを持つことを許可する、ただし勝者一名のみ』
「ふ、ふざけないでよ」
「にゃるほど、ニカはやるにゃ」
「ちょっとニカ! なに考えてるのよ!」
「なにって、トランプ持ちになるためにがんばるだけだにゃ」
まずい……多分このままいくと、リリールも戦うことを選ぶ。
「ね、ねぇ……」
「ソドム、諦めるにゃ」
ニタリと笑うニカの顔が、蝋燭の明かりで照らされる。どうしよう……。
「ニカ、考え直しなさい! もしこれが、わざと私達を争わせようとする罠だったらどうするのよ!」
「にゃ……それはありえるにゃ」
よし、ナイスだよリリール。
「がふっ」
「にゃんて言うとでも思ったかにゃ? 別に殺せって言われてるわけじゃないにゃ。だったら、とりあえず勝ってから考えればいいにゃ!」
ああ、やっちゃった!
「このっ!」
「にゃははは、弱いにゃ。試練症が出てないみたいだにゃあ」
ニカは強い。この強さはやっぱり、試練症。
「にゃははは! ニカの勝ちだにゃ!」
「うう……」
一瞬で決まった、勝敗。
「ソドム、おまえは負けでいいにゃ?」
「う、うん……」
私では、勝てない。
「にゃ、鍵が開かないにゃ」
「あたりまえでしょ、私はまだ……負けてないんだから」
リリールの雰囲気が変わった、ああ、どうしよう。これもうめちゃくちゃになるやつだよね。
「その顔、その顔を待ってたにゃ! さて! ニカのリベンジ開始だにゃ!」
「このっ!」
「ぎにゃっ! にゃは! 強くなったけど前よりは弱いにゃ!」
うわうわうわ! ちょっと二人とも加減してよ! ここ、狭いんだから!
「うわっ!」
ほら、ニカが私の真横に吹っ飛んできて……。
「甘く見るんじゃないわよ! この糞猫!」
「ぎゃっ! ぎにゃっ! ぎゃっ!」
やばっ、やばいやばいやばい、リリールキレちゃってる。あんなに蹴っ飛ばしたらまた――!
「ああっ!」
「調子にのるにゃよ? ニカは訓練受けてるんだからにゃ!」
え、なに今の音……まさかニカ……リリールの足の骨を。
「ぎゃにゃあっ!」
「はぁっ! はぁっ! ううっ、痛っ……」
折れた足で蹴っ飛ばしちゃった……あんなことしたら再生するのに時間が……。
「にゃは! もうおまえはだめにゃ!」
「ニカ! もうやめてあげて!」
「にゃ? ぎゃああっ!」
「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」
嘘……リリールがニカの目をっ……。
「もう片方もやってあげるわ!」
「リリール、もうだめだよ!」
「にゃ……にゃ……見えないにゃああああああ」
なにこれ……なにこれ……。




