260:少女寮と吸血鬼
私達三人は兵隊さんに言われたとおり、森の奥へと続く道を進む。
「道、あってるわよね……」
「あってると思うにゃ……」
「一本道だもんね」
どんどんどんどん、森の奥へ。木の密度は高まり、私達の影は道に映らなくなっていく。うーん、兵隊さんに着いてきてもらえばよかったかな……。これ、どこまで行けばいいかわかんない気が……。
「あ! 小屋……だ……」
唐突に道は終わる。だって、小屋が道を塞いでしまっているから。
「少女寮……ってなによ」
「私達のことかな?」
黒っぽい木で作られた小屋。その中央にある扉からはみ出るほど大きく、白いペンキで描かれた『少女寮』の文字。
「入る……しかないわよね」
「う、うん」
「なんか露骨にやばいにゃ」
それでも私達が扉を開けることにしたのは、ここが世界の平和を守るトランプ持ちが管理している場所だからという安心感だった……のかもしれない。
「うわっ!」
「な、なんにゃ!」
中に入った時――――二人は驚いて、私は妙に冷静だった。開けた部屋の中、蝋燭に照らされている壁にたくさんの、すごく細かい赤い文字が描かれていても。
「きっと私達へのメッセージかも。なんかの訓練かもしれないね」
「ソドム、あんた度胸あるわね……」
なんか全然怖くない。それに、これよりも真っ赤に染められた場所を見たことある気がする。今まで悪い夢を見たことは何回もあったから、そのどれかだと思うけど。
「課題なら読むしかないかにゃ……」
「うん、えっと……あれ? 多分これ、深い意味ないよ」
「なによソドム。さっきは訓練かもとか言ってたじゃない」
だってさこの文字……物語になってるんだもん。ありえるはずもない、吸血鬼のお話。きっとこれ普通の小説だよ。
「なによこれ、吸血鬼……典礼……言語? なにこれ、意味がわからないわ。どういうことなの?」
「……気持ち悪いにゃ」
「うーん」
びっしりと部屋全体。描かれている文字はたくさんあるんだけど……なんか上から擦ったみたいになってて、ほとんどが読めない。でも、感情的になって消したって感じはしない。吸血鬼だとかそういうちょっと怖い言葉が残るように、意識して擦ったような……。
「もしかして、この部屋にいた人が前に書いたのかな? 閉じ込められてやることがなくて暇で……とか?」
「な、なに言ってんのよ! なんで寮に閉じ込められないといけないのよ! まさかソドム、こ、この赤色は血だって言いたいの?」
「え、違う違う! 血だったらもっとどす黒くなるでしょ――――」
リリール、想像力豊かだな……なんて考えている後ろで聴こえた、ギギギギ、バタン。ガチン。これは、ひとりでに扉が閉まった音。




