259:遠くを見るレンズ
メメメスさんはすごく褒めてくれた。私がトランプ持ちになることを。(褒めてくれるって、喜んでくれることと同じなのかな?)
「ほんとにがんばったな」
その言葉がどこか寂しそうで。(私は本当にがんばったのだろうか?)
翌日、私はアミさんのお店に向かう。メメメスさんが、私にフィルムをプレゼントしてくれると言ったから。なんだかその気持ちが、お別れを強調しているようで――――私は何度も、メメメスさんの顔を見てしまうんだ。
「これは私からの餞別だ」
プレゼントの理由を知ったアミさんが、長いレンズをくれる。ああ、これもお別れのプレゼントか。
「これ……」
「望遠レンズだ。トランプ持ちになればいろいろなものを見ることになる。息抜きに、遠いものを撮りたくなる時も多いだろう」
「あ、ありがとござます!」
また変なお礼の言い方しちゃったな。
「私はまた……クリスマスに合わせることができなかったな」
私の誕生日は不明。だからクリスマスが誕生日代わり。
「クリスマスじゃないのに、こんなに素敵なものもらえるのはすごいことだと思うよ」
「そうか。おまえは本当にいい子に育ったな」
なんか、アミさんに褒められると心がじわっとする。
「この前やったカメラの操作は、覚えたかね?」
「うん、メメメスさんに教えてもらったから」
私がそう言うと、メメメスさんは腕を組んで三回頷いた。でも今日は、ずっと無口だ。
「そう悲しむなメメメス。休暇には戻ってくる」
「そ、そうですね。よし、ソドム! 私はこのカメラバッグを買ってやろう! これなら着替えも入るし!」
「うひひ、メメメスさんありがとう」
私の一週間。旅立つ前の、メメメスさんの家で暮らす子としての、最後の一週間。それは本当にあっという間で、思っていたより感情的になる暇がなくて。
「行ってきます!」
その一言に、すぐにつながってしまった。
リリールとニカと合流して、馬車で寮に向かう。その間私達は、ほとんど会話をしなかった。(だから私はずっと、馬の気持ちを想像しようとしていました。)
「すごい、ここがトランプ持ちの寮……」
「流石に緊張するにゃあ!」
高い鉄の柵の向こう側は広い運動場と、森。建物もいくつかあって……。あ、あそこが入り口かな。うお……なんか強そうな兵隊さんが二人も立ってる。
「私が代表して挨拶するわ!」
リリールの後に私達は続く。よろしくねリリール、私緊張してちゃんと喋れなそうだよ!
「本日配属になりました、り、リリールです! おちぇわになりまっち!」
ああ、噛んじゃった。リリール顔真っ赤……。
「ん? ああ。ハンプティの三人だね。学生証を見せてくれるかな?」
「は、はいっ!」
私達三人が取り出した学生証に、兵隊さんが端末をかざす。
「ふむ」
ふと思う。あの端末に、カメラがついてたら便利そうだなって。でもそんな小さいカメラ……作れるのかな? あ、でも110フィルムだっけ、アミさんのお店に小さいカメラあったし意外と…………うーむむ……。
「よし、問題ないよ」
私達にも端末を向けた後、兵隊さんが後ろの門を開いてくれる。ここを過ぎたら私達は……。
「ようこそ、トランプ兵の世界へ」
「あ、ありがとございまちっ!」
ああ、リリールまた噛んじゃった……。




