255:嗜好
学校についた時はちょうど休憩時間、私がニカと一緒に教室に入ると空気が変わった。そうだよね、一番のいじめられっ子と、一番のいじめっ子が一緒だもんね。
「リリール、ついてこいにゃ。六七班のやつらも一緒ににゃ」
黙ってついてくる三人、向かった先は三階のトイレ。他に、ついてくる人はいない。
「リリール、おまえずーっとソドムのこと解決しようとたくらんでたにゃ? 理由はなんにゃ?」
「……可哀想な子を放ってはおけないわ。私達はトランプ持ちになるんだから、弱い者いじめは認めれないの」
「それはニカのことを否定しているのかにゃ? にゃはは! 四対一だからって強気だにゃあ!」
ニカのその言葉に、私の心がホッとする。ああそっか、私はニカの仲間になって裏切ったと思われることが、不安だったのか。
「ニカ、なにをたくらんでるのよ」
「おまえは可哀想な子を助けたいんじゃないにゃ。可哀想な女の子が好きなだけにゃ」
「だからなにをたくらんでるのよ!」
「ニカはにゃーんにもたくらんでにゃいにゃ。たくらんでるのは、ソドムだにゃ」
みんなの視線が私に集まる……よね、そりゃ。
「こいつは一人でニカに啖呵をきったにゃ。六七班とニカの六五班で勝負して、勝ったら言うことをきけって」
「ソドム、それは本当か?」
「うん、ベストリーカ。本当だよ……」
「おまえ勇気あるなぁ! アタシはやるぜ! なぁカリアーカ、リリール!」
「う、うん! 僕もやるよ!」
一瞬リリールの表情が暗くなったのは、何故だろうか。
「ニカ、それは本気で言ってるのね」
「本気だにゃ。まぁ、リリールにそんな度胸があるにゃんて思わ――」
「やってやるわよ!」
大きな声は、下の階まで聞こえたかもしれない。
「私はね、悔しかった。情けなかった、そして今もソドムが覚悟を決めたのに、私がなにもできてなくて悔しかった」
「だからなんにゃ?」
「だから私があんたをぶっとばす! 私はっ……ソドム、私を殴って!」
「え?」
い、いきなりなに?
「殴って!」
ペチン。私の拳には全然力が入らなかった。
「もっと!」
「う、え?」
「強く!」
「う、うわあああ!」
ガツンと、私の金属の拳が頬の骨にあたる。
「ふふ、あははは! ほんと私ってダメな女よね。怖がりで、中途半端で卑屈で」
「なに勝手に盛り上がってるにゃ」
「でもね! あんたみたいな理由もなく人を痛めつける奴は、大っ嫌いなのよ!」
ニカとリリールの顔が近づいた。リリールが、襟首をつかんで迫ったから。
「それがどうしたにゃ!」
「にゃーにゃーにゃーにゃーうるさいのよ! 答えられねぇのかよ! 弱いってだけで人を痛めつけていい理由を! 結局あんたなんてね! 不良気取りのわがまま娘なのよ!」
えっ、ちょっと、ちょっとまって……。
「ニカを怒らせるにゃって……前言わなかったかにゃあ?」
ダメ、ニカを怒らせたら試練症が……。
『暴力的地下遊戯へようこそっっっっっっ!』
「え? なに?」
「ソドムはアタシの後ろに下がってな! これはもう止まらねぇ、やるしかないんだ!」
なんだったんだろ、さっきの……ここにいる誰でもない声は。なんか、頭の中で聞こえたみたいな。私、緊張でおかしくなっちゃったのかな?
「ニカが怒る前に手を離すにゃ……」
「なによ? ビビってるの? 私は今ここでやりあったっていいのよ!」
ああ、どうしよう……私の、せいだ。




