252:テスト用フィルム
メメメスさんがアミさんのお店に来たのは、もう暗くなってからだった。
「まったく、その癖、なんとかならないのかね?」
「す、すいません。ちょうどいい賭場が……」
「で、勝ったのかね?」
「はい! がっつり勝ちました! ソドム、欲しい物あれば買ってやるぜ」
フィルム! と言いかけて私は黙る。流石にあれは……高いよね。
「ソドムがほしがってるのはこれだろう」
「げ! フィルム……これはちょっとさすがに……」
ですよね……。
「心配するな。これはテスト用に何度も使ってる期限切れフィルムだから安くしといてやる。操作を覚えるのに必要だろう?」
「操作……え、アミさんソドムに一眼レフあげたんですか? うわ、すごいですねこれ……」
やっぱり高級品なのかなこのカメラ!
「じゃあソドム。これ買ってやるぜ! 上手に使えるようになったら、写るフィルム買おうな」
「あ、ありがとうメメメスさん!」
テスト用……って確か、アミさんがよくカメラの動きチェックするのに使ってる、もう写らなくなっちゃったやつだよね? そういえばフィルムに使用期限があるって知った時は、びっくりしたなぁ。あれ? でも期限過ぎても写るときは写るんだっけ? えーっと……どういうふうだったかな。うう、勉強しなければ。
「あーテストフィルムってことは……アミさん、フィルムピッカーあります?」
フィルムピッカー……ってなんだろ? 聞いたことあるような無いような。うん、知らないことだらけで楽しそう!
「売り物ではないが、まぁ私の予備を一つ譲ってやろう。ソドムに使い方をしっかり教えてやってくれたまえ」
「あ、ありがとうございます! って、あ……お金はとるんすね」
「それは新品だからな」
他にもメメメスさんは、もらったカメラにつけるストラップを選んでくれた。なんかたくさん買ってもらっちゃったね今日!
「うわっ、これめっちゃレンズ黄色くなってますね。いいですねこれ……」
メメメスさんも欲しい物を見つけたみたい。うひひ、なんか嬉しいな。
「アダプターは持ってるかね? それはスクリューマウントだぞ?」
「えーっと、確か……もってないです……」
「なら譲ってやろう。これは無料にしておいてやる」
「ありがとうございます!」
今のサービスは……多分、メメメスさんが今後たくさんお金を使うことにつながるサービスだと思う。だってマウントって、種類増えるとやばいやつだってアミさん言ってたもんね。
帰り道。私はアミさんにもらったカメラにメメメスさんに買ってもらったストラップをつけて、首に下げて歩く。
「いやぁ、今日もたくさんサービスしてもらったなぁ」
「よかったねメメメスさん」
「ああ。帰ったら使い方教えてやるよ」
「あれ、メメメスさんってフィルムのカメラ持ってたっけ?」
ポンポンとメメメスさんが私の頭を叩いた時、ふと思い出した。去年のクリスマス、アミさんがこっそり教えてくれた話を。大事にしていたレアなカメラを、メメメスさんがお店に売りに来た日の話を。そしてそのお金で、私を孤児院から――――。




