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ソドム・パラノイア  作者: Y
HELL HATE HARDCORE
271/301

248:肯定

 最初の授業は、私達六七班への厳しい指導だった。私達が時間を間違ったせいで失敗した、襲撃作戦。それをカバーするために、正規軍が動いたと。しかもその授業の先生は、私達の担任のスミレ先生。生徒を絶対に甘やかさない怖い先生だ。


「いいですか? あなたたち学生が失敗すると、トランプ持ちの方々が動くことになります。この意味わかりますね、リリールさん」

「はい。私達の作戦課題行動時は、常に監視員が一人ついて……いただいていると聞いています。だから……、私達が……失敗した時点で対応していただくことに、なります…………」

「そうです! 昨晩はあなたたちが早く行動しすぎたせいで、同時襲撃となりませんでした。しかも、放置した標的の一人が意識を保っていた。そのせいで通信を行われ―――」


 その時点で課題は中止。正規軍(トランプ持ち)の人たちの仕事になってしまった……ってことだよね。うん……それはちょっと大問題だね……。


「ああそうですね、今日はニカさんがいますし、学生としての心構えを聞かせてもらいましょうかね。いいですか、ニカさん」

「はい! 私達幼年学生は、トランプ持ちになるべく日々高い意識を持ち生活をします! 反バベル派を打ち砕くべく、私達は存在します!」


 さすがに「にゃ」とは言わないよね……先生の前では。


「そうですね。ではニカさん、あなたの個人的な目標を教えて下さい」

「はい! 立派なトランプ持ちになり、エースを目指します! そしていずれ反バベルの大物、憎むべき宿敵虐殺の愛(ジェノサイド・ラヴ)の首を狩ることにゃ! にゃっ……じゃない、狩ることです!」

 

 にゃって言っちゃった! 怒られ……あ、このくらいでは怒られないのか。私なら、超怒られたと思うけど……。


「素晴らしいですね。あなた達はまだ卵ですが、いずれは大空に羽ばたく存在です。気を引き締めて、生活するように。さて、授業をはじめますよ。戦技教本四十六頁――――」


 ああ良かった! これでお説教タイム終わりだね!


「ああ、大事なことを忘れていました。六七班は次の休憩時間指導室に来るように。いいですね?」


 じゃなかった……。




 授業が終わり、指導室に向かう間に会話はなかった。気まずい空気。仕方ないよね。


「随分と、クラスメイトから痛めつけられたようですね」


 あれ……先生知ってたの…………。


「今回の失態は班長である私の責任です。私がいじめられるのは構いません。だから……先生から他の三人には手を出さないように、言っていただけないでしょうか!」


 リリール、まさか私をいじめから遠ざけるためにわざと課題の失敗を? いや、流石にそれは考えすぎかな…………。


「勘違いしているようですが、あなたたち学生に責任などありません。あるとしたら、監督である私達教師にこそでしょう」


 スミレ先生……! まさかここでいじめが終わる? え、ってことはやっぱりリリールたちの作戦だったのかな? え? ほんと? うそ、すごいよリリール! みんな!


「ありがとうございます! 先生ならわかってくれると思ってました!」

「落ち着きなさい、リリールさん」


 つまり、私が課題に成功しても失敗しても助けてくれるつもりだったってこと? みんな……そんなに私のことを考えてくれて……。なんかすごく申し訳ない気がするよ……。うう、だめだ、今泣いたらだめだ。


「なにか勘違いしているようですから、はっきり伝えておきましょう。この学校にいじめなどありません。あるのは暴力だけ。そしてあなたたちは、暴力のプロになるためにここに通っている。そうですね?」


 え……。


「もちろん、同級生を殺害してしまった場合は問題ですが、それすらも規律違反という問題であり、いじめとはなりません」

「それは、私達もやり返して良いということでしょうか?」


 リリールが、怒ってる。いつも真面目で、先生の言うことをちゃんと聞いていたリリールが先生に。


「構いませんよ。ただ賢い手段だとは思えませんが」

「それはどういう――」

「ソドムさんという絶対的な弱者が、一人で耐えていたからこそクラスのバランスが取れていたことは、リリールさん、あなたならわかりますよね? では、そこにあなたのようなそれなりに力のある人間が、加害者として介入した場合どうなるでしょうか?」


 私が、耐えていた? 耐えるもなにも、勝手にされることなんだからそうなるしかなかっただけだよ。


「いくら先生でも言いすぎだ! アタシ達は加害者じゃねぇ!」


 ベストリーカまで怒り出して……ここって私も、怒れないといけないところなのかな。


「ベストリーカさん、あなたが昨晩、反バベル派企業の職員に行ったことは加害ではないのですか?」

「あいつらは、反バベル派じゃないですか!」


 乾いた音が響いたのは、スミレ先生がベストリーカの頬を叩いたから。


「いいですかベストリーカさん。そうやってなにも考えず肩書だけで人を区別し、暴力を振るって良いと決め込んでしまうのはとても良くないことです。そんな考えでは、いつか暴力の本質を見誤りますよ」


 決して声を荒らげない。でも優しい顔もしない。そんなスミレ先生が、いつもより怖く感じた。


「暴力ですから、理不尽なのは構いません。ただ、馬鹿の駄々は無能のやること。わかりましたか、四人とも」


 その静かな威圧感に私は、意味もわからずはいと返事をするしかなかった。きっとリリールたちも同じ気持ち。


「アリス様のおかげで私達の体は、傷を受けても再生します。だからこそ、感謝を忘れず、暴力の許容範囲について私達は考える必要があるのです。いいですか? ちゃんと考えて、意味のある暴力を使いなさい」

 

 クラスのみんなは、私達の教室がこんなにも暴力が肯定された場であることを知っているのだろうか。

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