247:ハンプティ達の教室
翌日、学校に行く途中に見上げたバベルの模様は、クローバー。でもハートが出た時以上に、気分は明るかった。だけどそれを、顔に出したらだめ。リリールたちの作戦が失敗しちゃうから。
「え……」
教室に入ると、囲まれて蹴られている子達がいた。リリール、ベストリーカ、カリアーカ。私を助けてくれるって言った三人。
「ようやく来たか、おいソドム、さっさとこっちこい!」
「痛っ!」
一度も喋ったことのないような子に、髪の毛をつかまれ引きずり倒される。え、なんで……教室にいる子たち全員が……六七班以外の全員が怒ってるの?
「ソドム、ごめんね」
「リリール、なにがあっ――」
「勝手に喋るんじゃねぇよ!」
「げほっ!」
うあっ、痛いところ入った……。
「僕のせいだ……」
カリアーカ……?
「だから勝手に喋るなって言ってんだろ!」
「おい、もうやめてくれ。弟はそんなにタフじゃ――」
「じゃあタフなてめぇが全部責任取れるのかよ! 無理だよなぁ、ベストリーカ! 六七班の班長はリリールだもんなぁ!」
なに? なにがおきてるの?
「そうよ! 班長は私よ! だからっ、責めるなら私だけを――」
「うるせぇよ!」
三人が責められる隣で、私は理由を聞かされる。昨日の私達の襲撃のせいで、みんなの課題が失敗したと。私達が標的を倒した時間は間違いで、本来ならもっと後に動かねばならなかったと。
「ははっ! リリール無様だにゃあ」
びくり。私の体が硬直する。久しぶりに聞いた、その声に。久しぶりに見た、その姿に。
「ソドムなんてグループに入れるのが間違いだったにゃあ!」
学年で唯一装備することが許された、大型の刃物を内蔵する特殊義手、特殊義足。白髪で赤い瞳、綺麗な顔の女の子――――六五班班長、ニカ。
「もうすぐ授業がはじまっちゃうにゃ。リリール、とりあえずこの場はニカがおさめてやるから、おまえが代表して謝罪するにゃ。ほら、舐めろ」
砂だらけの靴の裏が、リリールに突きつけられた。あれ、舐めさせられるとしばらく口の中がジャリジャリしたままになるやつだ……。
「ニカを怒らせるにゃよ?」
学年一の強者、ニカは特別な訓練を受けているから滅多に教室には来ない。その強さの理由でもある、重たい試練症を上手く扱うための、選ばれし者だけが受けられる訓練を。つまりニカは私達よりもずっと高いレベルにいる、同級生であり同級生ではない存在。
「ほら、リリール。舐めるにゃ」
「…………」
「ソドムにできることがなんでおまえにできないにゃ!」
「ぐっうっ!」
靴底を顔に押しつけられたリリールを見て、私はホッとする。だって、そっちのほうが、舐めさせられるよりずっとずっと楽だから。
「にゃはは! リリールの顔で汚れ落としだにゃ!」
だからリリール、がんばって今は我慢しよう。そうすれば、そのうちやめてくれるからさ。




