243:課題
私が教室に戻った時、授業も、生徒も……教室には残っていなかった。はぁ、ちゃんと受けたかったな。卒業できれば…………軍に入れなくても、将来ちゃんとお仕事ありそうだし。私馬鹿だから、今のうちになんとかしとかないと……大人になった時やばいよ絶対。うう、なんでずっとトイレにいたんだろ私!
「…………」
洗ったせいで濡れた制服の襟が、冷たい。
「またいじめられてたの?」
「うわっ! え、えっと……」
振り向くと、隣の席の女の子。褐色の肌、輝く銀色の髪に黄色の瞳。私と正反対の、力強い視線の女の子。右の膝から先が神の切断でなくなってて、真っ青な義足をつけてる。格闘が得意で、みんなには狼みたいって言われてて――――うん、やっぱり私とは正反対だな……。
「リリールよ、名前くらい覚えてよね。そんなんだからいじめられるのよ」
「忘れてたわけじゃっ……痛っ」
強烈なデコピン……。
「わかってるわよ。忘れられるわけないわ、私とあんたは同じ班だもの。今度の課題、足引っ張らないでね」
「か、課題って……あれ? 課題出てたっけ……うあっ!」
強く頬を叩かれて、口の中が切れる。
「気合入った? 血、たらさないで飲み込みなさいよ? 私がいじめてると思われたら困るわ」
「う、うん。もう治ったから大丈夫」
アリス様のくれた再生の力がなければ、今頃私は傷だらけなんだろうか。
「あんたがいない間に、課題が出たのよ」
渡されたプリントはクシャクシャ。捨てられたやつを、拾ってくれたのかな。
「反バベル派企業の……従業員……襲撃?」
「班になにもできなかった人がいると減点になるから、しっかりやってもらうわよ」
「な、なんでこんなことするのかな」
ある企業で働く人達を、一人づつ襲う。そんなことに、なんの意味があるんだろう。
「そんなこともわからないの? 会社の人間を襲撃すれば、恐怖で辞める人がたくさん出る。そうすれば会社が困って――――はぁ、いい? 絶対に一人はやるのよ? やれなかったら、あんたを徹底的に追い込むから」
仕方ない、きっとこれも世界を守るため。アリス様のバベルを、守るため。
「が、頑張るよ私! アリス様のために――――ふがっ!」
「そんな生意気言うのは結果出してからにしなさいよ。いい? しっかりやるのよ!」
「いたたた……がんばる、がんばるから」
私の顔を鷲掴みにしながら怒るリリールは、実は優しいのかもしれない。叩いたりするけど、会話はしてくれるから。
「さて、いくわよ!」
「え……?」
「ええ。行動開始指定時間まであと三十分。だからこうして待ってたんじゃないの!」
「痛っ!」
強烈なチョップ……。うう、もう少し加減してほしいな……。




