242:神の切断とクリスマス生まれ
授業中、私があてられる確率はたかい。
「人体のうち、再生することのない部位はどこでしょうか? はい、ソドムさん」
ほらね。
「え、えっと、骨……じゃなくて、頭です」
「はい。骨は個人差が大きいですが、損傷の具合によっては再生できますからね。あとソドムさん、再生しないのは頭ではあることは間違いないですが、正式な言い方は首です。脳を破壊せずとも、首を切り落とせば殺せますからね。ここ間違えないでくださいね」
首……首の上にある鼻とか耳は再生するって習ったし……その言い方だと余計にわかりにくくないかな……。
「それに、神の切断を忘れていますよ」
「えっと、だって、あれは戦いとは関係ない……ですよね?」
アリス様がメギドの光を使ってゾンビ化した部分を焼き切ってくれた、神の切断。私が腕がないのもそのおかげらしい。アリスダウンの影響で、覚えていないけど……。あれ? みんな記憶が消えてるなら、誰がその話を教えたんだろ? 教科書にのってるってことは、有名な話ってことだもんね……。
「ソドムさん、なにをぼーっとしてるんですか? 廊下に立ってなさい!」
馬鹿な私を廊下に立たせて授業聞かせなかったら、もっと馬鹿に……なっちゃうんじゃないかな。はぁ。
チャイムが鳴り、私は廊下から開放される。その後は、いつものパターン。いつもの同級生チームに捕まり、いつもの三階のトイレに、いつものように連れて行かれる。あれ、今日は見たことない子が二人もいるな。
「おいソドム聞いたぞ、おまえ誕生日クリスマスだってな!」
クリスマス、バベルの定めた誕生日のわからない子たちの誕生日。誕生日がないことで差別をしてはいけませんっていう、優しい優しい教え。
「プレゼントもらえるのか?」
「えっと……」
「もらえねぇよなぁ! だって、おまえの母ちゃんまともに仕事してねぇんだろ?」
「お、お母さんじゃないよ」
それが失言だったみたいで、私のお腹に重い一撃が入れられた。
「育ててもらってるならお母さんだろ? ひでぇやつ。やっぱクリスマス生まれのやつはダメだな!」
その後、仲間入りの儀式って言う名前のお腹蹴りを、今日から私のいじめに参加した二人からうけた。でも、今回の休憩時間は短いからそこまで。
私がまたトイレまで連れて行かれたのは、給食の後。それまではなにもなく、ビクビクしながら平和に過ごせた。今日は、いい日なのかもしれない。
「なぁ、なんで給食のデザート食ったんだ? 俺達は許可してねぇぞ!」
今日献上がなかったのは、そういうことだったんだね。
「質問してんだろぉ!」
「うぎっ、うげっ!」
「うわっ! 吐きやがった!」
蹴飛ばしたのはあなた。でも、私がわざと吐いたのは事実。だって、そうすれば痛いことされる確率が、減るから。
「おい、なんか言うことねぇのかよクサソドム!」
「げほっ、げほっ。ありがとうございます。おかげで、二回も甘い味を味わうことができました」
感謝する時は、理由を添えることが義務づけられている。義務は義務、その理由について考えることは反逆に値する。
「汚ねぇ話するんじゃねぇよ! 気持ち悪ぃな! だからおまえはクサソドムなんだよ!」
「すいません。指導してくれてありがとうございます」
謝罪は自分に罪があるからこそ、必要なもの。だから感謝を示し、他の誰にも、私以外の誰にも、罪がないということを証明する。
「片付けとけよ。おまえの吐いたゲロだからな」
「はい、教えてくださり、ありがとござます」
「お礼くらいちゃんと言えよ」
上手く言えなかったから、仕方ない。頭を踏み潰され、吐瀉物に溺れそうになっても。




