241:goodmorning
私は目覚めると、まず布団をチェックします。おねしょして怒られたくないから。まぁ、チェックした時にびしゃびしゃだったら……もう遅いんですけど……。
「よし! 今日は大丈……ううっ!」
おねしょをしていないってことは、身体の中におしっこがいっぱいあるってこと。だから私は急いでトイレに行くんです。
「こらソドム! 起きたらまず挨拶をしろって言っただろ!」
「うああっ! どいてどいて!」
怒ってるピンクの髪のお姉さんは、メメメスさん。私のお母さん代わりの人。優しいけどちょっと厳しいのが……。
「ふぅ。間に合った」
トイレを出て洗面所で手を洗います。カチカチカチカチ音を鳴らして。だってね、私の両腕は金属製なの! 綺麗なつや消しの金色の!
「ソドム、学校ではおとなしくするんだぜ?」
「え! 今日格闘技の授業あるよ!」
「だーかーらー! 負けて泣きわめくなって言ってんの」
「うう、だって私弱いんだもん」
はぁ、憂鬱だな。
「いってきまーす!」
「泣くなよー!」
そんな大声で言わなくても……。
「あ、今日もいい天気。アリス様のおかげかな」
チュンチュン鳥の声が聴こえるのは、四年前におきたアリス様の思し召し、アリスダウンのおかげ。アリス様って呼ぶのに、なんでアリス様ダウンって言わないのか不思議だけど……とにかくそれが起きて世界は小鳥が鳴くほど平和になりましたとさ。
「あ、お参りしていこ!」
石のお墓みたいなこれは、ゾンビっていう腐ったまま生きて苦しんでいた人を弔うためのもの。
「ゾンビ、聞こえますかゾンビ」
これがお参りの言葉。
「腐ったまま……怖いのかな? 自分がすごく臭いってどんな気持ちなんだろ」
四年前も生きていた私が、その怖さも臭いもわからないのはアリス様のおかげ。アリス様がゾンビにまつわる怖い記憶を全部全部、世界中の全部の人から消してくれたんだって。
「あ、そうだ! バベルは今日なんの模様かな?」
世界の中心にある、雲の上まで続く超大きな塔。近づくと壁にしか見えないらしいくらい、大きい塔。私の街は結構離れてるから、一応塔に見える。きっとあの塔の上からは、世界が全部見渡せるんだろうな。きっときっと、空の上のほうにある世界も。いや、空の上に世界なんてないよね……うん、私なに考えてるんだろ……。こんなんだから、現実見れてないって言われちゃうんだ!
「今日はスペードかぁ」
塔のまわりをぐるぐると、螺旋階段のようにのぼっていく模様。ハート模様だったらいいことがあるっていう、私占いをいつもしてるんだけど、もうずーっとハートは見てない。
「あ、やばい! 遅刻する! うわ、宿題忘れてた! はぁ、私、もしかして学校で勉強した記憶も消されてないかな?」
学んだこと、美味しいごはんを食べたこと。そういうことは、全部ちゃんと覚えてる。メメメスさんと出会った日、その前暮らしてた孤児院のこと。そして今年三年生になったばかりの、幼年軍学校のこと。うん、ちゃんとニ年間勉強した記憶あるね……はぁ、私が馬鹿なだけか……。
「ううう……もう行くしかない!」
勉強もダメ、運動もダメ。格闘技なんてもってのほか……戦うの苦手だから、将来はなんかの博士とかになりたいなぁ……って、私……勉強もできなかったね……。うう。




