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ソドム・パラノイア  作者: Y
new/diary
262/301

diary:countDOWN1、或いは赤の女王仮説の話

 眠れアリスよ目覚めるな、不思議の国は夢の中だけでいい。


「ねぇ、ソドムはたくさんソドムを殺したの?」

「いや、自分は何人殺そうが一人だ」

「どうしてそれを教えてあげなかったの?」

「大半の人間が語る恐怖症は、ただの苦手症だ。それをいちいち広げていては、聞かされる方の心がもたないのだよ」


 いつもより珈琲が苦く感じるのは、アリスが起きているせいか。


「ねぇ赤の女王、あなたはなにがしたいの?」

「いや、私は赤の女王ではない」

「知っているわ。あなたは――――」


 唐突に眠る。この睡眠が普通ではないと物語るかのように。


「ご機嫌斜めだな、博士」

「どこへ行っていたオリジナル? アリスの子守はおまえの役目だろう」


 私と同じ顔の女。それに対し特別な感情はない。


「私はそろそろここを出ていくよ。ここには欲しくなるカメラもないのでね」


 好きなものに触れないつらさは、おまえにはわからないだろう。


「博士、おまえは一体誰だ?」

「おまえのクローンだよ。オリジナル」

「歩きでいくつもりか?」

「ああ、私のソドムも歩いてのぼってきたのでね」


 バベルの中央にあいた穴の壁面を這う、階段。私が地上にたどり着くまで、何年かかるだろうか。


「冗談だ、エレベータを使わせてもらうよ。クリスマスまでには帰りたいのでね」

「そうか、好きにすればいい。あとはしっかりやっておく」

「そうしてもらいたいものだな。私はもうこんなところへは来たくない。空が宇宙に見える距離は、好きではないのだよ。それに私は、赤の女王仮説には興味がない。今を生きることが、趣味なのでね」


 過去だの未来だの、私達は忙しい。


「よくしゃべるじゃないか」

「ああ、当分おまえと話す気はないのでね。せいぜいがんばりたまえ、私のオリジナル」

「赤の女王、不思議の国のアリス、猫、悪魔、箱……。科学はメルヘンとそう大差ない、そう思わないかね?」

「哲学じみた面倒事は、妄想の中(ソドム)にだけある現実(・パラノイア)だけにしてくると助かるのだが」


 妄想の中(ソドム)にだけある現実(・パラノイア)。ラヴクラインの連携システム。コード404など比較にならない性能を持つこれは、その性能故に不安定のようだ。情報量が多すぎるのだろう。


「おまえと話していると実に楽しいのだよ。まるで他人だ。己をゾンビ化させ、その回復法をナノマシンに学習させる。自らを危険に晒す選択は、私にはできないのでね」

「そうか。なら妄想の中(ソドム)にだけある現実(・パラノイア)から外れた二人とでも、話してみればいい。私より他人を感じられるだろう」


 月が天体だと気がついた時、人類は恐怖した者と興味を抱いた者にわかれた。ただそれだけのことだ。

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