239:生きているから
長い廊下を歩く間、私は考えた。世界はなんなのかと。私はなんなのかと。結局答えは出なかったけど、私が、私という存在が世界にとって大きすぎる存在だってことだけは、理解できた、けど、理解できなかった。
「なんでこんなことしてるんだろ」
どこまでが私の意思で、どこまでが仕組まれたことなんだろう。どの感情が私のものなんだろう。こんなこと、もう何回考えたっけ? そもそも考えてたんだっけ、ちゃんと。
「私、こうなることをわかってたのかな」
きっとそうだ。私は自分が特別な存在だって、わかってた。少なくとも、博士が特別な存在だってわかってた。わかっていたような、気がする。
「私は特別になりたいの?」
博士に会いたいのか、殺したいのか。いや、会いたいだけだ。だって特別な私を、ちゃんと受け止めてくれるのは特別な博士だけだから。
「だから私は――――」
廊下を抜けた先、遥か上まで続く空洞。そしてその内側にぐるぐると上を目指して続く、階段。
「邪魔なものをさ、結局、どけちゃうんだよ」
階段にはポツンポツンと、見たことある顔の人が立っている。上までずーっと。きっと見えないくらい高いところまでずーっと。
「うひひ、あなたたちはさ、誰なのかな」
青い瞳、金色の髪。水色のエプロンドレス。まるで、真っ黒になる前の私みたいな子たちを、殺して殺して殺して殺して、殺し続けて、私はバベルをのぼる。大丈夫だよ私、だって今私が殺しているのは私だから、どれだけ殺しても、殺したことにならないよ。
じゃあ、何故私は叫んでいるのか。
もしその答えが「生きているから」だったら、笑える。




