238:支配者の都合
なんかよくわからなかったけど、戦いは終わったらしい。
「くそっ! くそっ! くそっ!」
クロリナは座って、ずっと地面を殴ってる。そのたびに生まれる強い振動。私、あんな力で殴られてたのか。
「ねぇ」
「ああ? なんだぁ? さっさと進め、私が出てきた方に行けばあがれるからよぉ! くそっ! くそっ! くそっ!」
…………。
「ねぇ」
「うるっせぇな! さっさと行けって行ってんだ――ぐがっ!」
顔面に膝。座っていたから、丁度いい位置にあったし。
「なにしやがっ――ぐがっ!」
「無抵抗だと、わりと効くんだね」
鼻からぼとぼとと落ちる、血。髪の毛を掴んで、何度も何度も膝を入れる。
「なにし――がっ! ぐっ!」
「えっと、なんかムカつくから」
あなただって、そういう理由で私を殴ったんでしょ? ああ、なんでだろう。すっごくムカつく。
「ぐっ! ぐあ」
「本当に私に危害加えないんだね。偉いと思うよ、ちゃんとラヴクラインに言われたこと守って。私もさ、博士に引っ張られてこんな所まで来ちゃった」
「ぐっ! あっ」
「なんでなの? ねぇ、クロリナ。あなたならなんか知ってるでしょ? 私はあなたの娘なの?」
さっき言われた、娘という言葉。きっとそれが私をムカつかさせてる。なんだか、すっごく不快なの。すごくすごく。
「ぐっがっ!」
「私さ、再生するからどれだけやっても平気なの。自分の体痛めるくらいの力でやっても、平気なの。それにあなたは不死者だっけ? ならさ、いつまでもいつまでもやれるねこれ」
膝から飛び出した私の骨が、目の穴に入り込んでも抵抗しない。それって、オリジナルの言葉がそれほど、クロリナにとっては大事だってことだよね。なんか私と似てるね。私と、博士との関係に。それにしても強いなこの人、せっかく骨が目に入るように狙ってるのに潰れないんだ。
「くそっ! 痛てぇなぁ! 私は君ほど再生しないんだ! もう少し加減をしろ!」
「世界最強がなに言ってるの? それにまだ全然綺麗な顔だよ?」
ほんとだ、一応再生はしてるんだ。うん、これならいっぱいやれるね。
「ぐっがっあ!」
「やっぱり、おもいっきりやれば効くね。それとも私、また強くなったのかな?」
膝、膝、膝。何度も膝。他のやり方を考えるのもめんどくさいし、何度も膝。砕けて治り砕けて治り、砕けて治る膝を何度も叩き込む。治癒勝負ならさ、私負けないから。いつか削れるでしょ? 私の膝よりずっと頑丈なその顔も。
「ねぇ、ラヴクラインってなに?」
「がっ!」
これは答えたくない質問なのかな。
「ねぇ、私はなに?」
「ぐっ! ぎ」
これも答えたくない質問なのかな。
「私はあなたの娘なの? あなたはお父さん? お母さん?」
「……!」
あ、雰囲気が違う。これは押せば答えてくれるはず。
どのくらい膝を入れ続けたのだろう。私の想像通り、クロリナは私に関する事実を一つだけ話した。
「ソドムの町には、出産用のラヴクラインのクローンが地下にいる。それを孕ませるのが私だ」
「あっそ」
聞いてみると、本当にどうでもいいことだった。
「じゃあ、私行くね」
「…………ラヴクラインを……オリジナルを殺さないでくれ」
「やだよ」
クロリナが起き上がれないのは、私の暴力で顔がいろいろなっちゃったせい。露出するはずの脳みそは硬い金色の金属に包まれていたから、壊すことができなかったけど。もしかして、不死って、それだけのことなのかな?
「待て」
「なに?」
「君は、狂っているな」
「あなたの娘だからね」
そんな実感は、ない。だから最後にもう一発いれる。クロリナの脳を守る金属と私の拳、どっちが強いか確かめたかったから。多分今の一撃は、今までで一番強い――――。




