235:我世我世我々の世界
私が通り過ぎた家やお店からゾロゾロゾロゾロ出てくる人々。みんな私についてくる。それが当たり前のことのように思えてきて。
「私、なにしてるんだろ。ほんとに」
強く強く、何度も、博士がメメメスにしたことを思い返す。私は博士を――本当に殺したいのかな?
「ソドム様、あちらに見えますのが唯一の入り口です。中でクロリナ様がお待ちかと」
私の前を、案内をするために歩き続けた人が言う。この人以外はみんな、私の後ろ。
「うひ、うひひ、ありがと」
これは喜び。クロリナと聴いて私の中の暴力が喜んだから出た笑い。ああ、いいな、戦えるのか。戦ってる時ってさ、自分より強い人と戦ってる時ってさ、あんまり考えなくてもいいもんね。うひ、うひひ。(わざとらしく笑えよ私。)
「ああああっ!」
感情を吹き飛ばすために、大声を出す。暴力に酔うのは、やめよう。暴力に溶かされたら私は……あれ? それでいいのかな? それで正しいのかな?
「どうされましたか?」
そして、驚かない人たち。
「ん、なんでもない」
ある意味、楽。
「じゃあ、ありがとうみんな。死なずに、家に帰ってね」
そう呼びかけると全員が一斉に地面に頭を擦りつけるような、土下座をした。ああ、そういえばリューリーがクロリナに土下座させられてたな……うひひ、私もクロリナを土下……はぁ、そんなに戦いたいのかな私。
「ソドム様、ご武運を」
「へっ」
唐突に言われて、驚く。その声にはとてもとても感情がこもっていたから。
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
えっとえっとえっと……。
「う、うん。わかったよ」
苦笑いみたいになっちゃったな……意味分かんないし。
「じゃあ、行くね」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
いつまでたってもその声が終わらないので、私はバベルの入り口に向けて歩くことにした。
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
「ソドム様! 我々をお救いください!」
「ソドム様! 世界をお救いください!」
うーん、もう本当にわけわかんなくなってきたぞ…………。
「…………ちっちゃ」
私はついにバベルの足元にたどり着いた。私の目の前にある、白い、小さな扉。ちょうど私の背の高さくらいの。これが、こんな小さな扉が、この巨大なバベルの入り口? こんな、小さな木の白塗りの扉が?
「555555733000:/YF Authentication」
「うわっ」
扉が喋る。そして開く。なんでこんなことでちょっとびっくりしたんだろ。もっと変な体験してきたのに。ああ、そっか。私の脳って……自分の脳なのにそうじゃないような時があるんだな。(そうやって思うのは、私の考えなのだろうか。)
「おじゃまします……」
小さなドアを抜けた後は、普通のサイズの通路だった。
「なんか簡単に来れちゃったな」
街でもっと手間取るかと思ったけど……。きっと私は、終着点にだいぶ近づいているはずだし。
「あれ? この通路……」
見たことある。どこだっけ? その答えはすぐに通路の先から聞こえてきた。
「モニターの向こうのレッディィィィィィスアンジェントゥメン! さあさあ、今日もはじまったはじまった暴力の祭典っっ! 暴力的地下遊戯アンダーバイオレントゲェムへようこそっっっっっっ! 暴力的な暴力の祭典だぜぇ!」
そっか、じゃあ私が今歩いているのはブルーゲートか。




