228:不安な不安定
目的のない拷問は簡単で、すぐに私は集中できなくなった。
「ああっ! あああもう! なんなの! 私ってなんなの!」
以前ほど、気持ちが暴走しない。だからこんな程度の叫びしかでない。
「はぁ……なんなの……」
圧倒的な力、圧倒的な再生力、私のために切り離された先頭車両、バベルで私を待つ博士。その全てが、私が特別な存在だと教えてくる。全てが私を、生きる方へさしむけているかのように。
「ふがっ……ふぐっ……もう、殺して……殺して……おねがい」
「うん、もういいよ」
「え?」
バンと頭をふっとばす。ああ、私は頭を撃たれたらどうなるのだろうか? 脳みそも、心も再生するのだろうか?
「…………」
いつしか見慣れてしまった、死体というものから目線を移した先はずっと黙ったままのメメメス。うん、黙ってるよね……あたりには私だったものがどっさり、私の体一個分くらいあるのかな……そんな中で立ってる私に言えることなんてないよね。ずっとなかった右足でしっかり体を支えてる、私なんかに。
「ソドム……」
近づいたら、口を開く。きっとそれはさよならの言葉の前置き。怖いからバイバイって、諦めた言葉の前置き。
「私はっ……」
「いいよもう。主役は私なんだ、メメメスは死んじゃう危険あるかもだから、やっぱりここまでにしよう。メメメスはここで――――――おりて」
メメメスを食べようだなんてさ、おかしいよね。でも私はそれを受け入れた。メメメスみたいな優しい人がさ、そんな狂ったやつと一緒にいたらだめなんだよ。
「ソドム。私はっ……」
ガンと床を殴ったのは、私への罪悪感からだろうか。
「おまえといるぞ! 最期まで!」
「え……」
最後って……。
「おまえの役にはたてないかもしれない。でもさ、まだ私は……この怪我なら……よしっ、なんとか歩けるぜ? うわっ!」
メメメスは立ち上がれなかった。骨が見えている、傷のせいで。私はこんなひどい傷をほったらかして、ずっとあの少年を殴っていたのか……。
「まぁ、ちょっと休めばなんとなかるさ。私はさ……おまえといるよ。おまえと歩いていくよ」
「う、うっ……うあああああああああああああ」
ああ、泣くな私。だって私はメメメスを食べるつもりなんだよ? だから泣く権利なんて……。
「私さ、おまえが好きなんだ」
「うう、うううう」
「今、私におりろって言ってくれたの、最高に嬉しかったぜ。だから決めたんだ。私は私であるために、おまえに全て捧げようって」
「うう……え?」
「知ってんだよ私、私がおまえの強化用だってこと。それの取り入れ方のこと。だからさ、食えよ私のこと。お前の中で一緒にいるよ」
その言葉に私の心がズレた。そして気がついた時には、メメメスをめちゃくちゃ殴っていた。殺さないように手加減しながら、めちゃくちゃに。




