227:私、弾切れを待つ私
もう弾切れを待つしかない。そう思った私に、絶望的な提案が投げかけられた。
「僕はそろそろ帰るよ、君の足を奪って。クロリナ様に、殺すのはだめだって言われているからね」
これはつまり、私の敗北が決定したということ。
「悔しいでしょ? 悔しいでしょ? 生たまま目標を達成できない! それは死ぬより苦しいよね」
足を奪う。この提案は最悪に最悪だ。だって、私、内臓再生するくせに右足は……義足のままだもんね。つまりこれを外されたら私はもう、歩けない。
「えっと、ここと! ここと! ここか! 十発撃てばとれるかな、いや上手くやれば五発くらい?」
「くあっ……やめてっ」
お腹の下の方、金属の右足と私の境目を指でなぞられる。それが、痛くもなんともないそれが、すごくすごく不快で――――。
「君さぁ、さっきクロリナ様の男か女をぶっつぶすって言ってたよね? でも君こそ、こんなとこまで金属製じゃないか!」
だから……なに、もうさわらないで。
「さて、いっきまーす! ほら、足にバイバイしなよ」
「んぐうぅうううううっ!」
ふと思う、何度も何度も内臓を吹き飛ばされてるのに、ここまで意識と気持ちを保ててるのはやっぱり私が、化物だから――――。
「はぁああっ! 硝煙くさぁい! たまんないなぁ」
「あ……あ……」
銃で人の体を切り離すことってできるんだね……。
「じゃあね、バイバイ。僕はいくね」
「うひひ、ひひ」
私は、事実を受け入れ狂った、こともなく、立ち上がる。
「え……えっ、なんで……なんで……足が、生えてる」
「この足を取りつけてくれたのはさ、博士なんだ」
「なんで……え、え?」
はぁ、まだ痛いけど……足が増えたぶん毒が薄まったかな? ひひ、動ける。
「おい、近寄るな! 近寄ると撃つ――」
「この距離で私を撃つなんて、無理だよ」
だってさ銃に手が届くもん。簡単に取り上げれちゃうでしょ?
「なんで! なんで……まさかあの義足は、再生しない足の代わりじゃなくて、再生を抑えてっ……」
「この銃、痛かったな。あなたも味わってみたら?」
「やめっ……ぎひいいっ!」
銃の撃ち方はなんとなくわかる。博士のを見てたから。
「あれ、外れちゃった?」
「外れてないっ、外れてないよっ! ちゃんと当たった! ほら見て! ここ、かすって肉が」
「あ、そっか。こうして撃てばいいんだ」
「ぎぁああああああああああああ」
太ももに近づけて、バン。うん、この銃やっぱ音がうるさい。
「足がっ、足がぁ」
「ちぎれちゃったね。でもこれ、あなたが私にしたことと同じじゃない?」
「ひいっ、ひいっ」
弱いな。いや、私が強いのかな。それにしても……私の中身、どっさりちらばってる。こんなにたくさんぶち抜かれたのか。
「な、なにしてるっ……んだ」
「え? 撃ち込まれた弾をほじってるんだけど? だって毒でしょ? 痛いんだもん」
金属の指は肉の体によく突き刺さる。中身ごと引きずり出しても、すぐ治る。うん、このくらい掻き出せばいいかな。
「えっと、こっちの銃はどうやって撃つんだっけ。この毒、ほんと嫌な感じだったよ」
「そ、それはや、やめて……」
毒の弾をドバって撃ち出すほうの銃は、引き金を引いても発射されなかった。なんかどっかをガシャッとやってた気がするんだけど……うーん。
「わかんないや」
「がっ!」
あきらめて殴るのに使ってみたら、相手の鼻と銃が壊れた。
「ふがっ! ふがっ!」
めりこんだせいで、変な息の音になっちゃったね。
「ふがっ、髪が……金色に」
ん? あ、ああ。黒くなりかけてた生え際の部分の話? なくなったの? なんかさ、私の色すぐ変わっちゃうね。次は真っ黒になっちゃったりして!(それは、色がないことと同じなのだろうか?)
「あなたのことは時間かけて殺すね。次の駅につくまでゆっくり」
「ふがっ……ゆるし……」
だってさ、今の私すごく強いもん。足も生えちゃったし。だからね、そろそろ異常だって気がついてきた。私が、この世界の中でかなりかなりかなり異常な存在なんだって。だから、だから、だから! ごめんね、暴力に逃げさせて。




