225:君
「世界の有り様に嘆いた神は空に苦難を放つ。そして、羽ばたけなくなった鳥は鶏に類似し、猫はたらふく食べる権利を得たというわけさ」
「え、なに言ってんの? ねぇメメメス、あいつぶっとばしていい?」
「いいぜ。ぶちのめしてからいろいろ聞こうぜ」
うん。普通に話しても、絶対会話にならないタイプだもんね。
「はぁ、野蛮だね。僕は理解できないよ。クロリナ様が君のような馬鹿女を認めただなんて」
「クロリナこそ野蛮だと思うけど」
「ええっ? 君はそれを本気で言っているのかい?」
「えっと、うん……」
しまった、話にのっちゃった! そういえばクロリナも人のこと君って呼んでたな。なんかすっごく好きみたいだし、真似してるのかな。(私は博士の真似をしたことがあっただろうか?)
「はぁ、クロリナ様の素晴らしさが理解できないなんて。終わっている! 生物として終わっているよ君たちは!」
「えっと、うん……」
「僕が教えてあげよう! クロリナ様の素晴らしさを!」
えっと、うん。
「あのお方は神に認められし存在」
「えっと、うん……」
「汚れなき心をもった穢れなき存在」
「えっと、うん……」
「その証拠は肉体にあり!」
「えっと、うん……」
えっと、うん。
「あのお方はね、この科学の時代に神話を固定するアンドロギュ――」
「そろそろいいかな?」
「聞けよ! ここ一番大事なところだから!」
「え、うん……」
そんなガチで怒らなくても。
「アンドロギュ……まさか両性具有ってことか?」
うわ、メメメスまで話に参加しちゃった。
「ああ、そうだ! あのお方はね、神に役目を与えられ男女双方の原価値を得たのさ! わかるかい? 肉体を自由に変えるだけのテクノロジーのあるこの時代に、簡易繁殖行動の必要需要が薄まったこの時代に、それを! わざわざ与えられた意味が! 神! 直々に! ああ、クロリナ様! 素敵です! あなたはまさに神使!」
「神ってのは……オリジナルのことか?」
メメメス、もう話を広げるのはやめよ?
「君たちがそれを知る必要はない」
「えー! 話してきたのそっちだよね!」
さすがの私もびっくりだよ。
「とにかく! あのお方は現世唯一の御使い、生ける活動神殿、神聖なる――」
「えっと、クロリナには男女の特徴が両方あるってことだよね?」
そろそろ話をぶった切らないと、終わらないよねこれ。
「そうさ! クロリナ様だからね!」
「ならさ、その片方ぶっつぶしちゃえば神から遠ざかるってこと?」
このくらい言わないと、こういう会話は終わらないよね。
「はぁ。君はやっぱり、野蛮だよ」
「うん、まぁなんていうか……」
「ソドム! 避けろ!」
座席に銃を隠して――! うひひ、甘いよ? 銃なんてさ、簡単によけれるし、当たっても大したことないし。
「ソドムっ! 隠れろ! 散弾だ!」
「え?」
破裂音と、全身の痛み。な、なにこれっ!
「うああっ! 痛っ……このおおおおっ!」
身体中に小さい弾が……? ああ、もう! 痛いけどこのまま殴り殺す! こんな傷すぐ治るから!
「う、うぎいいいいいいいっあああああっ」
距離を詰めて殴りかかった瞬間、悲鳴を上げたのは私の方だった。
「効くでしょ? 僕特性の、毒の弾。君は傷が治るらしいからさ、考えたんだよね。最適な痛めつけ方を」
あ、なにこれ……電気流されたみたいに痛いっ……。
「ほら、もう一発!」
「んぎっ!」
近距離でお腹にっ……。だめっ、傷が治っちゃったら全部私の中に残っちゃう……!
「はははは! これだけ埋め込めば掻き出すのは不可能! 治る体が仇となったね! 蝕まれ続けろ! 僕の毒に!」
「ぎっああっ……あっっ!」
な、なにこれ。熱いっ、お腹がっ、血が熱いっ!
「さて、お次はこの銃の出番だ!」
「それは……おいっ! やめろ!」
「だまれよ、脇役」
銃口が私からメメメスの方に……。そして、とんでもなく大きな音と、叫び声。まさか――――。
「ふぅ! すごい反動。僕、感じちゃうなあ」
「くそっ! すまねぇソドム、足をやられた!」
良かった、生きてっ――うぎっあっ……体が痺れっ……。
「うーん、肉が抉れただけか。ピンクの癖に頑丈だな。さて、君にはどのくらい効くかな?」
「があっあ!」
お腹が背中にっ――あ、え?




