224:ソドムの町
私はリューリーの通信機を返さなかった。必要だと思ったから、意識して奪った。
「返すのだ!」
だからリューリーは怒っている。
「悪いことなのはわかるけど、博士から連絡あるかもしれないでしょ?」
しばらく間をおいて、リューリーはニヤリと笑った。
「きゃははは! リューリーちゃんの教えをちゃんと理解したな? それでいい、それでいいのだソドム!」
ありがとうリューリー。(人と距離を取るのがうまいね。おかげで私も楽だよ。)
「じゃあ、リューリーちゃんはバイバイするのだ」
「ほんとにいくの?」
リューリーって、またひょっこり出てきそうだし。
「あたりまえなのだ。もうここから先はヤバ過ぎ確定なのだ。まともな頭なら、誰でもさよならを選ぶのだ」
「うひひ、私当事者だからおりれないや」
リューリーはまた笑った。
「メメメス、リューリーちゃんと行く気はないのだ?」
「ない」
「はぁ、おまえもなかなかおかしいのだ」
「ありがとよ。おまえのおかげで覚悟を本物になるまで固めれたぜ」
「なんなのだそのダサい言い回しは」
私は、人に恵まれてる。そしてそれを利用する気でいる。あ……利用できるから、恵まれてるのか。
『次はソドムの町、ソドムの町。到着前に一両目以降を切り離しますので、バベルに向かわれる方は先頭車両までお越しください』
「今の聞いてどう思ったのだ?」
「露骨だね」
ソドムの町、列車の切り離し。もうここまで来ると、ギャグにすら思えてくるよ。
「いかに世界がバベルに支配されているか――。ま、せいぜい世界の大事に、全力で関わってみるのだ。主役たち」
今度はメメメスがニヤリと笑った。メメメス……ごめんね。この大事の主役は私だけなんだよ。主役は、一人なんだ。
『それでは、先頭車両を切り離します。バベルに向かわれる方は、大急ぎで先頭車両までお越しください』
「え、もう!」
「さぁ! 走るのだ二人とも!」
ここ何両目? え? え?
「またねリューリー!」
「またねなのだ!」
このまたねは、高い確率で実現しない。きっとみんな、そう思っているだろう。
「先頭車両間に合うかな!」
「大丈夫だ、先頭はもう次……うおっ!」
ガクンと揺れたのは……え! えええええええ! 目の前で切り離されたぁああああ!
「ソドム、先にいけ!」
接続部の縦長の穴は、二人同時に飛べるほど広くない。だからまず、私がおもいっきりジャンプ。
「メメメス!」
なんとか着地、その間にも車両と車両の距離はどんどん開いて……。
「うおおおおっ!」
「届いて!」
私は全力で手を伸ばしメメメスを地面にぶつけないように、強引に先頭車両へ引き入れた。
「はぁっ、はぁっ。なんとかなったな」
「うん、ごめんね? どっかぶつけなかった?」
「大丈夫だ。ぶつけたけど、私もわりと頑丈だからな」
「うひひ、よかった」
そんな会話をする私たちに向けて、パンパンパンと聞こえた遅い拍手の音。明らかに称賛してない、拍手の音。
「いい友情劇を見せてもらったよ」
なんか綺麗な顔立ちの、なんだか高そうな服を着た男の子……だよね? 多分。うん、どっちでもいっか。
「僕は鳥、君という猫を喰らう鳥だよ」
うわ、この子も頭おかしいタイプだ……。




