223:嘘つきGIRL'N'ROLL
博士の声は、博士の声だった。
『ソドム、わかってると思うが不用意に答えるなよ? これからする話は、おまえ以外には聞かれたくないのでね』
「そっか、博士はやっぱりバベルにいるんだね」
私は嘘をつきはじめた。メメメスとリューリーに通信の内容を知られないために、嘘の会話をはじめた。とても、自然に。
『おまえは今、世界で二番目に強くなった。一番はもう知っているだろう? クロリナだ』
「うん、クロリナはすごく強かったよ」
少しだけ話を合わせるのは、私の嘘がおかしくなってバレるのを防ぐため。
『これははじめて話すが、おまえと私の戦いは世界を救うためのものだ。そのためにおまえは、バベルをのぼらねばならん』
「うん、バベルには向かうつもりだよ。博士がどんなつもりでも」
ああ、なんかすっごく上手にできてる。
『いい感じだ、いい感じだ。素晴らしいぞソドム、さすが私のソドムだ』
「う……うん」
うひひと笑いそうになったから、心の中に閉じ込めた。博士、博士。会いたいよ。声を聞いたら、抑えていた感情が……ああ、嗚呼。どこにあったかわかんないくらい、博士に会いたい感情があるの。
『残る障害はクロリナくらいだ。あれは気が狂っているのでね、おまえを素通りさせてくれるかもしれないが、そうでないかもしれない。まぁ、高い確率でやり合うことになるはずだ』
「うん」
心が入っていそうなところが、苦しくて少し気持ちいい。クロリナなんてどうでもいいくらい。
『あれは不死者、異常な存在だ。おまえと相性も悪い。だから勝つ方法を教えてやる』
「え?」
勝つ方法って聞いて、思わずびっくりしちゃった。うん、でも変な感じにはなってないよね? 違和感ないもんね、今びっくりしても。(メメメスたちの方を見るな、嘘つきがバレるぞ。)
『虐殺の愛がメメメスの体内に入れたナノマシンは、おまえの強化用だ。クロリナと戦う時が来たら、彼女を食したまえ。そうすればおまえは世界一の暴力を得る』
「え……」
『夢で予行演習しただろう? 心配するな、メメメスはシャーベット人間。最初からその予定でおまえと一緒にいるものだ。食べてやらないと、かわいそうだと思わないかね?』
口の中に、唾液が……。
『では、バベルで会おう。アリスもおまえに会いたがっているぞ?』
「博士、待って!」
きれ……ちゃった。
「どうだったソドム」
「えっとね、クロリナはおまえを認めただろうから……大丈夫だって。あと、メメメスも一緒に……バベルに来たらいいって」
「そっか。ほんとに実力を測られてただけだったんだな。安心したぜ」
「え! リューリーちゃんは? リューリーちゃんは呼ばれてないのか? なぁ、リューリーちゃんは?」
私が首を横に振ると、リューリーはがっくり肩を落とした。
「なぁリューリー、バベルってそんなにすげぇところなのか?」
「あそこが世界の頂点であることは間違いないのだ。はぁ、リューリーちゃん呼ばれてないみたいだからほんとにほんとに、もうおりるのだ。アツアツバカップル二人で行けばいいのだ」
「今までいろいろありがとうね、リューリー」
リューリーはここで切っておかないと。どこまでバベルについて知ってるかわからないし、アリスとか言ってたし……私の嘘を暴かれると、困る。嘘つきは、きっかけを極力減らさないといけないんだ。
「ま、せいぜい感謝するといいのだ! ここまで導いてくれたリューリーちゃんに!」
「うん。そうだね。本当に、本当にありがとう」
私はメメメスをちらりと、寂しそうな顔でちらりと見た。(もちろんこの顔は嘘だ。)そして、予測通りメメメスは優しく、優しく苦笑いしてくれる。ごめんね、こんな私で。私、やっぱり博士に会いたいの。




