218:大人
大人は本当の話をするとは限らない。なんとなく今日までを振り返ってそう思った。大人はきっと、ほとんどが嘘つきだ。じゃあ、子どもは?(今から戦うのに、なんで振り返ってるんだろう?)
「うひひ、騙された?」
もちろん、子どもも嘘をつく。ダメージを受けたふりをして、思いっきり蹴っ飛ばすなんて、あたりまえにやる。そう、嘘に大人も子どもも関係ない。嘘をつく必要があるか、ないかだ。(本当に子どもは、嘘をつく必要性が低いのだろうか?)
「悪いけど、すぐ殺すね?」
殺意をしっかり持って狙う場所を決めれば、簡単に――――え、いや、いくらなんでも簡単すぎない? 私、異常に強くなってない? 敵さんが弱いだけ?
「ソドム! こっちを手伝うのだ!」
「できれば私の方も頼むぜ。こいつら、なかなか強いぞ」
二人は苦戦中。うん、なんか……全員の動きがゆっくり見えるような気がする。いや、別にスローになったりしてるわけじゃないけど、なんていうか隙だらけ。
「ソドム! はやくするのだ! 列車から落とされそうなのだ!」
「あ、うん! ごめんね、今やるよ」
簡単に顔面をつかめた。そのまま思いっきり腕をふりぬいて、首を壊す。
「あれ、死んでない? えっと……もう動けないと思うし、あとはリューリーやれるよね?」
「あ、ありがとなのだ……」
次はメメメスを助けなきゃ。うわ、向こうの車両に行っちゃったね、追いかけないと。
「メメメス! どいて!」
私の目は確実に敵を捉えていて、メメメスが避けた瞬間にそれを全力で殴った。でも、それは失敗だった。
「ぐぶっ!」
「う、あ、ああああっ! 腕がっ変な方向にっっ!」
しまった、集中しすぎてた。ここ……個室じゃなくて椅子ばっかりの車両だった……。
「はぁっ、はぁっ……ソドム、おまえのせいじゃねぇ。押し負けちまった私のせいだ」
「う……」
どうしよう、気がおかしくならない。どうしよう、私のミスだってちゃんと理解できる。どうしよう、私のミスで無関係の人が巻き込まれて大怪我したって……どうしよう、私がその人達がいるのを無視して、敵ごと……どうしよう、後ろでクッションになった人達を……。ああ、やっぱりだめだ。私の頭、今、普通に動いてる。
「うわっ!」
突然の衝撃、列車がガタガタと揺れた。まるで、私のぐるぐるした思考をぶった切ってくれるかのように。
「待てソドム! 一人で行くな!」
「嫌な予感がするの! メメメスは待ってて!」
列車の前の方へ。きっと衝撃の正体は、そこにある。そここそが私の、逃避場だ。




