216:クローン
視界は白黒にならなかった。痛みもなかったし、髪も真っ黒にならなかった。(生え際の方は見えないからわかんないけど。)でも、私の力は今までで一番強かった。
「なっ……なんなのだその力はっ……っていうかなんでリューリーちゃんを押さえつけるのだ!」
「このままさ、思いっきり力入れてリューリーごと床ぶち抜いたらどうなるかな」
床が軋む。さすが列車さん頑丈だね。
「おい、離すのだ……」
リューリーの手は自由だけど、攻撃してこないのは私が拳を握っていつでも振り下ろせるようにしているから。そう、私は片手で、押さえつけてるだけ。
「リューリーはさ、硬いよね。列車の車輪も硬そうだけど、大丈夫かな?」
「D666型の車輪は、穴駅みてぇなヤバイルートにも対応した超長距離用だぜ? さすがにエグいことになるはずだ」
うひひ、メメメスが喋った。
「な、なにがしたいのだ」
「リューリー、教えて。知ってることを全部」
「ま、まさかおまえ」
「メメメスがいなくなるのは嫌、だから力づくで教えてもらうよ」
しばらくして、リューリーは笑い出した。
「きゃはははは! おまえはやっぱりイカレてるのだ! よし、教えてやるのだ!」
良かった。抵抗されたら、どうしようかと思ってたし……列車の床なんてぶち抜けるかわかんないし。うん、はったり大成功!
「あーなんていうかさ、悪かったぜリューリー。確かに私は素人だ、でも覚悟はあるんだ。それだけは理解してくれ」
メメメス! ナイス謝罪! このタイミングで謝罪はグッドだよ!
「ま、メメメスはちゃんとリューリーちゃんが躾けてやるのだ……ってソドム、そろそろ離すのだ」
「あ、ごめんね!」
しまった、簡単に押さえつけれすぎて忘れてた。
「メメメス、おまえはなかなか命知らずなのだ。後悔しても、もう知らないのだ……はっ、まさか! おまえ、クローン体かなんかなのだ? ズルい! ズルいのだ! リューリーちゃんも作ってもらえないのに!」
「いや、私はクローンじゃない。もう外都市から出ちまったからな、作らせてもらえねぇよ」
え、クローンって……よくあることじゃないの?
「外都市に本体残して作ればいいのに、どうしてわざわざ出てきちゃったのだ?」
「私は私でありたかったんだよ。私本人で」
「クローンも本人になれるのだ。ソドムだっていっぱいいるけど、みんな個人として生きてるのだ」
ショックではなかった。私はもう、私と同じ顔に何度も会ってきたから。
「あ、ソドムはバベル印だから、自分に会っても深く考えないように脳を調整されてるらしいからまた別問題か……、うんうん、そうだそうだ。リューリーちゃんはそういう話をしようとしていたのだ! ま、そういうことなのだ!」
「えっと……」
「おまえはリューリーちゃんたちとは明らかに違う、特殊生物なのだ。ラヴクラインとセットな時点で特別枠なのだ。ご理解いただけたのだ?」
え……今の話はちょっとショックかも……。いや、なんとなくそういうところあるかなって思ってたけど……うん、どうして今までそれを考えられなかったんだろ。
「ソドムはラヴクラインの実験場。どういうルールかは知らないけど、ソドムを立派に育て上げたラヴクラインだけがバベルに行けるらしいのだ! そして、おまえが今一番ナイスなソドムというわけ――」
「その話はそのへんにしておこうぜ」
「はぁっ……はぁっ」
息が苦しい。
「確かに……そのほうが良さそうなのだ」
大丈夫だよ……そのまま続けて……知らないといけない話だから……。
「はぁっ……はぁっ、ね、ねぇ……」
「ソドム。とりあえず休もうぜ、ひどい汗だ」
「だめ……一個だけ聞かせて? リューリー、なんでそんな話、今、今、私にしにきたの?」
「きゃは! そこを聞くとはなかなかなのだ! ぐふふ、せっかくリューリーちゃんが気を使ってボカしていたのに! いいのだ! 教えてやるのだ!」
どこで気を使ってたんだろ……。リューリーってほんと、適当だよね……。もう少しちゃんとしてくれたら、助かる、ん、だ、けど……。
「リューリーちゃんは本当は、リディアではなくオリジナルに頼まれたのだ! 555555733000:/YFに気がついたラヴクラインのソドムにいろいろ教えてやれって」
ああ、悔しいな。もっと聞かなきゃいけない話なのに、ちゃんと聞かなきゃいけない話なのに、頭がくらくらしてきたよ。




