213:吐瀉物の理由
撃ってきた人は気絶というか、意識がない。うん、私がやりすぎたからね。で、私達はその人をある場所に運んでいる最中というわけなんですが――――――――なんか悪人になった気分です。うん。さすがにあの男の子も近づいてこなかったし。(運んでいるのはメメメス。私はまだ感情の奥が落ち着いてなくて、また手を出しちゃいそうだから……。)
「まったく、ソドムはお友達のリューリーちゃんを強く殴り過ぎなのだ。おかげで意識が飛んでたのだ!」
「ご、ごめんね」
リューリー硬いから、脳に衝撃いきやすいのかな?
「うお! おまえ目が戻ってるのだ!」
「うん、再生したみたい」
「キモっ」
え、ひどくない?
「まぁそんなことはどうでもいいのだ。ソドムがキモいのは今にはじまったことじゃないし」
え、ひどくない? いや、まぁキモいかもしれないけど。っていうか右目、普通に見える。すごいな私のナノマシン。
「さて到着なのだ! ここがリューリーちゃんの基地なのだ! 入る時はお邪魔しますと言えなのだ!」
着いたのは、リューリーが奪っちゃった闘技場。なんかそんなに広くないし、薄暗くてやな感じだな。
「お、おじゃましま……うわ、ひどい臭いだね」
「まったく、そんなに日にち経ってないのに腐るの早すぎなのだ!」
そこには最低でも五人以上の、めちゃくちゃに壊された死体。
「さて、お仕事なのだ! メメメス、そいつを床に寝かせるのだ!」
「はいよ。つーか仕事って、なにするつもりだ?」
メメメスが背負ってきた人は、まだ目覚めない。やっぱ、やりすぎちゃったかな……。
「こいつからいろいろ聞き出すのだ! リューリーちゃんはそういうの得意だからやってあげるって話なのだ! まかせるのだ!」
「おまえ、語尾にのだつけるの下手だな」
「うるさいのだ」
そういえばリューリー、前よりのだのだ言ってる気がするな。まぁこの人もキャラ作ってる系だし、どうでもいっか。
「ソドムはなにも考えずに殴り過ぎなのだ。顔にマスクのパーツが刺さりまくってるのだ! 場所が悪かったら脳をやって尋問できなく……うわ、喉も! 潰れて声が出なくなってたらどうするつもりだったのだ!」
ご、ごめんなさい。そういえばあのマスク、ガラスとか金属も使われてたよね……それが刺さってるんだよね。あ! そっか、私の手は金属だから刺さらないのか! うひひ、大発見!
「んん? ん? んー? この顔、知ってるのだ」
「えっ」
「間違いないのだ、ぐっちゃぐちゃだけどこの骨格の形、Sリーグ選手のリダル・リンリなのだ。なるほどなるほど……そりゃっ!」
「ぎあっ!」
ええええっ! いきなりっ左目に指突っ込んだ! リューリーめちゃくちゃやるね! 人のこと言えないよね! ねぇ!
「おい、いつまで寝たふりをしてるのだ」
「ぐぅっ……殺せ」
「嫌なのだ。色々聞かせてもらいたいのだ」
「がっ!」
リダルとかいう人が起き上がろうとしたところに、リューリーの容赦ないパンチ。っていうかまだ動けたんだ、さすがSリーグ選手だね。今度から頭だけじゃなくて体もやらないと。
「ソドム、わざわざ見なくていいぜ。やつは相当悪趣味だ」
「うん……でも、私達のために聞き出そうとしてくれてるんだし。目をそらすわけにはいかないよ」
「お! ソドム! おまえなかなか成長したのだ! いいのだいいのだ、体型以外の成長は素晴らしきことなのだ! えいやっ!」
「ぎああああああっ!」
足首を力いっぱい踏みつける、まるでハンマーかなんかで殴ったような音。リューリーの硬さ、すごいな。
「うわっ、折れたなあれは……」
「逃げられたら困るもんね」
うん、私でも足を折ると思う。いや、馬乗りで殴り続けちゃうかな?
「はぁっ、はぁっ。私はなにも喋らないぞ! 殺せ! さっさと殺せ!」
「きゃは、きゃはははは! ふひっふぐふふふ、安心するといいのだ、喋らなくていいし、死ななくていいのだ!」
逃げられたら困る。そんな、偉そうなことを言った私もすぐに目をそらした。あまりにもリューリーのやったことが……エグかったから。
「おい! やりすぎだぜ!」
「メメメス、見てられないなら外に出てるのだ。こいつはSリーグ選手、そして元特殊部隊! それだけそろってれば口を割らせるのは簡単じゃないのだ」
「だからって――」
私はメメメスのスカートの裾を掴む。
「ソドム……」
「敵が見えないままは……危険だよ」
「そうなのだそうなのだ、ソドムの言う通りなのだ! 列車の発車時刻までに、必ず黒幕を吐かせないといけないのだ! ぐふ、ぐふふふ、きゃはは! きゃははは!」
甲高いリューリーの声が、闘技場に反響する。そしてそこに混ざる、濁音混じりの悲鳴。
「うっ……うえっ! おええっ!」
「メメメスはこういうのは苦手なのだ? まぁ人には得手不得手があるから、ここはリューリーちゃんに任せるといいのだ!」
「げほっ、げほっ。ひでぇ、よくもあそこまで人を痛めつけれるものだぜ……」
うん……だいぶ前に見た、リディアさんたちの拷問よりよっぽど……。
「きゃははは! ふぐふぐ! だんだん調理前のお肉みたいになってきたのだ!」
「う、うええっ!」
今度は私が吐く。メメメスの肉を食べた夢を思い出して。ああ、あの時は我慢できたのに。
「はぁ、なんなのだおまえらは。暴力屋のくせに、今更なんに抵抗感じてるのだ?」
「そいつは無抵抗だろう……」
「バーカ言ってるんじゃないのだ。今おまえが生き残ってるってことは、おまえが殺してきた相手はみんな無抵抗だったのと同じなのだ。おまえが強いから殺せた、それだけなのだ」
メメメスは唇を噛む。ごめんねメメメス、私リューリーの言ってる意味なんとなくわかる。でも多分吐いてる理由はさ、違うよね?
「ねぇリューリー。多分メメメスは抵抗感じて吐いたんじゃなくて、ただ単にグロすぎるからだと思うんだけど」
「…………」
あれ?
「ふぐふふっ、きゃは! きゃははははははは! 今の発言すごく残酷なのだ! 最低なのだ! きゃははは!」
ほんとだ、私最低。




