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ソドム・パラノイア  作者: Y
Sodom/paranoia
224/301

205:望み望まれカリカチュア

「私はここで死ぬためにたくさんのお金を払ったの! だからっ、邪魔するなら殺してやる!」


 その叫びにみんな拍手した。ああ、よかった。メメメスは拍手してない。いつでも動き出せるように、周囲を警戒してくれてるだけだ。


()()()?」


 私は「()()()死ぬためにお金を払ったの?」と聞きたかったのか、それとも「縛られた状態で()()()私のこと殺すって言ってるの?」と聞きたかったのか、どちらだろう。


「本当よ……私は死にたいの」

「少し、お話聞かせて?」


 なんでそんなこと言ったんだろ私。この子から、なにを聞き出したいのだろう?


「い……いいけど……」


 正直、断ってくれたほうが良かった気がする。(私の脳は、()()()()()()()()()()を急いで考える。)


「えっと、なんで死にたいの?」

「私はゾンビになる確率が高いって……だから、綺麗なまま死んでいきたいの! カリカチュアなんかになりたくないの!」


 綺麗なまま死にたいと言ったその顔は、別に綺麗な顔じゃなか(痣だらけだ)った。でもわかる。その綺麗は、そういう意味じゃないってこと。(そしてそれに気がついた時、その子の顔がとても綺麗に見えたこと。瞳以外は。)ん? ()()()()()()()ってなんだろ? ま、いっか。聞くと長くなりそうだし、そんなことより会話を続けなきゃ。


「でもさ、ならないかもしれないでしょ? あ! 私の知ってる人は、お腹だけ腐るようにしてゾンビにならないように――――」


 博士もラヴちゃんも、ゾンビ化をなんとかしてた。でもあの二人はラヴクライン、普通の人に同じことができるのかな――――そう思った時、私の言葉は止まった。


「私はなるのが嫌なんじゃない、なるかもしれないのが嫌なの。そんな不安を抱えて生きていくのが、もう嫌なの! どんな方法が見つかったって、世界は腐ってしまうかもしれない! そんな不安がある世界は嫌なの!」

「不安は……嫌だね」


 私もここに座り続けていたら、この子と一緒に光が焼き尽くしてくれるのだろうか?


「そろそろ、どっかいってくれない?」

「うん。ごめんね邪魔して」

「別に、これから死ぬんだし」


 なんか、余計なことしちゃったな。


「ねぇ、死ぬの怖くないの?」


 その質問に、答えはなかった。


「またね」


 ()()()()()()()()()()()をして台から下りる時、私が階段を使わなかったのは――――ここに続く一本道を「あけろ」と武装した人達が叫んでいたから……なんか気まずくて。(偉い人でも、来るのかな?)


「ごめんねメメメス!」

「まったく、おまえは唐突に無茶をするな」

「おい! 処刑台から離れろ! ああ、そこじゃない端だ! 端によけろ! そこは光の通り道だ! おい、そっちに行くな! 処刑台の裏は立ち入り禁止エリアだ!」


 私達はそのへんにいた人ごと、道のすみっこに追いやられる。うわ……そんなに押さないで……私、押し返す力を加減しないと、みんな大変なことになっちゃうんだから。


「あああああ! 嫌だ! 死にたくない! 死にたくないぃいいいいいいい!」


 穴の中が段々と明るくなってきて――――女の子が叫びだした。そして私の脳に反響する「ねぇ、死ぬの怖くないの?」という、自分が自分の口から吐いた、答えをもらえなかった質問。(私がそんな質問をしなければ、あの子はこんなに早く取り乱すことはなかったのではないか?)


「ソドム、行くなよ。行ったらお前も焼かれる」

「うん」


 太陽が、()()()()()()()()に侵入してくる。(あれは太陽そのものか、太陽から発せられた光の、()()()()()()()なのか? 少なくともそれは眩しく、私は目を細め、目をそらす。)


「おお、光だ……」

「浄化の光だ!」


 見学者達が振り向いたのは、集まった光が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に現れ、ゆっくり降りてきていたから。うーん、浄化って言うほどかな? ただの日だまりみたいだよ。


「やだ! やだぁあああ! 助けて! 助けてぇえええええ! やめます! やっぱりやめます! お金返さなくていいから助けてぇええええええええええ!」


 光は段々と()()()()()に近づきながら、その直径を縮めていく。


「来ないで! こっちに来ないで! 光を止めてぇええええ」


 ああそっか。道をあけたのは、この()()()が通るからか。


「ごめんねメメメス」

「私こそ動けなくてごめん」

 

 その場から動けないのは、メメメスのせいじゃない。たくさんいた人ごと、まとめて道の隅に追いやられたせいだ。きっと今、道の真ん中に出てしまったら、誰かを殺さないとここには戻れない。


「熱そうだな」

「うん」


 道に降り立ち、じわじわと近づいてくる光の丸は熱を帯びているのだろう。(それを証明するかのように、照らされた小さな水たまりは、蒸発して消えた。)


「うわっ! 熱いっ!」

「おい押すな!」

「きゃあっ!」


 私達から少し離れた場所で軽い騒ぎが起きて、何人かが道に倒れこんだ。


「うああああ! 光がっ!」

「死ぬ! 死ぬぅうう! どいてくれ! 俺をっ、どけぇええ!」


 そして、倒れた人たちの上を光が通り過ぎる。


「安心しろソドム、あのくらいの光じゃまだ人は焼けないはずだ」

「そっか……」

「ん……? 光が動いてるだと? え、なんだこれ? どういうことだ?」


 メメメスが急に考え出す。


「ねぇ、どうしたの? なんか変なの?」

「なんで一枚レンズなのに、こんな軌道で光が移動してくるんだ……? まさか!」

「ん?」

 

 メメメスにつられて見上げると、レンズはキラキラキラキラと――――まるで中に泉をしまってあるかのように輝いていた。うわ、すっごい綺麗だな。なんか虹みたいな色も見える。(虹みたいな色とは、多色である。)


「電的に光の屈折を変化させてるのか? 複雑なプリズム加工? いや、違うな。光の動きに融通が効きすぎてる――――」


 メメメスは真剣に考え、私は綺麗だなとただ見つめている。うん……この差……ね。(私ってもしかして、()()()が馬鹿なのかな。)


「おいおい、マジかよ。あれ……あのサイズで流変レンズだっていうのか? いや、間違いねぇ。そうじゃなきゃ、こんなことできるはずがねぇ」

「りゅーへーレンズ? それってすごいの?」


 聞いたことあるような、聞いたことないような……レンズの話は博士から散々聞かされたから、よくわかんないな……。 


「ああ、あのレンズを一枚でも使ったカメラ用レンズは、とんでもねぇ値段になる。ようは作るのが難しいってことだ。グラムあたりの価値が高すぎる。それをあんなサイズで作ったら……いったいいくらかかるかわかんねぇぜ。街が買えるんじゃねぇか?」

「街が? 処刑のためだけに超いっぱいお金使ったってこと?」

「異常だぜ……」


 私達がそんな話をしていると、さっき光が通り過ぎたあたりで「目が見えねぇ」という喚き声が聴こえた。


「そろそろ私達の前を通るぜ」

「うん」


 光の丸はだいぶ小さくなっていた。(もうすぐ人一人分になるだろう。)そしてそれが向かう先は――――うなだれてブツブツとつぶやいてるだけになってしまった、女の子のところ。

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