204:処刑観光
穴駅は人気があるらしく、列車からは沢山の人が降りていった。腰とか痛そうにしているのは、個室でも椅子でもなかった人かな?
「こんなところになんかあるの?」
「なるほど……。これが処刑観光ってやつか」
「処刑?」
「ほら、あれみてみろ」
メメメスが上を指差し、空が歪んでいる理由を説明する。あれは大きなレンズが一枚、穴の中央に固定されているせいだと。カメラのレンズとは違うもの……だよね? だって今まで見てきたレンズは、透明だけじゃなかったし。
「よく見ると固定用の鉄筋が見えるだろ? 反射でうまく隠してるけど」
「ほんとだ」
レンズは浮いているわけではないらしい。んん、結構多いな。あ、壁にずーっとあるのが線路だね! そっか、列車はあの鉄筋の間を抜けて、この穴に入ったのか。うーん、すごいぞ列車を作った人!
「で、そうそう。処刑って、そんなものが観光になるの?」
「あのレンズは太陽の光を集めるものなんだ。それで処刑をする。ただの処刑じゃなく、あれだけのデカブツを使った処刑だから見世物として成り立つんだろ」
「メメメスほんと詳しいね」
聞いててもいまいちよくわからなかったけど。(わからないってことは、私の知らないことってことだ。)
「このあたりは学校で習うからなぁ」
学校?
「ああ、でさ、その集められた光がさ、人を焼くんだよ」
「え! 光で焼けるの? 人が?」
そういえば、炎も明るい。
「光は細く集められると熱くなるんだよ」
「?」
「うーんなんていうか、ちょうど光が点になる距離にあのレンズがあるんだ。大きい光が穴の底に向かってキューッって細くなってくんだよ」
むむむむむ……わかるような、わからないような。
「じゃあさ、あのレンズをもっと地面に近づければ光が太くなって、街が焼けちゃうってこと?」
「うーん、どうだろうな。光の幅が広いと温度低いし、眩しいだけじゃないか?」
集まった光……確かに眩しそうだ。
「しかもさ、季節によって鉄筋のネジを調整して、同じところに集まるようにしてるんだってさ。わざわざ人一人殺すのに手間かけ過ぎだよな」
「よっぽど悪い人なのかな、そんな殺し方するなんて」
「どうだろうな。私はこの処刑方法を考えたやつが、一番悪人な気がするぜ」
私達はなんとなく、人の流れに合わせて歩く。だってここは脇道のない、一本道だから。
「あれか」
「……あの子、殺されちゃうの?」
「まぁ、処刑だし、殺されるんだろうな」
小さな町のちょうど真ん中。大人の身長の二倍くらいの高さの、階段付きの石の台の上。そこに突き刺さった、金属の棒。そして、縛り付けられている女の子。露出のない黒い服……デザインは違うけど、狂姫さんみたいだな……。
「そっか。殺されるってことは、死んじゃうのか」
色んな人がカメラを向けて写真を撮ったりしているのを、女の子は光のない目で見ていた。これから光に殺されてしまうのに。
「気分の良いもんじゃねぇな、私達は列車に戻ってようぜ……っておい! ソドム!」
私の体は勝手に動いていた。嘘、ちゃんと意識して台の上にかけあがった。
「君は?」
「私はソドム。ここにいたら死ぬよ?」
ああ、なんか人が騒ぎ出した。うわ、なんか武器持った人たちまで来たよ……。町の人かな?
「……ないで」
「大丈夫、助けてあげるから」
なんでこんなことしてるんだろ。人が死ぬところなんていっぱい見てきたのに。
「…………ないで」
「大丈夫だよ、私強いから」
まぁ、なんとかなるでしょ。いやいや、だからなんでこんなことしてるんだろ。私はこの子と、なんにも関係ないのに。
「助けないで」
「は?」
女の子は、本気で私を拒んでいた。私を見る目が、怒りに、満ち溢れて……。




