200:個室で全裸
走る列車の個室の中で全裸。なんだかそんな状況が楽しくなって、私達の会話は弾んでいた。
「そっかソドムはヘヴィメタルが好きか! しかもジャーマン系とは熱いね」
「うん! やっぱりさ、なんていうの? あの金属的なんだけど美しいというか、綺麗というか、まるで物語を聞いてるみたいに変わってくというか! あ、あとヘヴィメタルって言葉もかっこいいね! やー! ヘヴィメタルだぜ! って感じで」
「あはは、なんだよそのポーズ」
ヘヴィメタルと聞くと思い出す。狂姫さんのことを。あの人はどんな気持ちで、痛みに耐えて生きていたのだろうか。どんな気持ちで、あの日、空に向かっていったのだろうか。
「あ、そういえば車掌さん来ないね」
「ああ、まぁ。明日とかに来てくれるだろ。多分、きっぷの確認かな」
「ん、そっか。あ、メメメス! 見て!」
「おお、砂漠狼だな」
窓の外を走る、狼の群れ。月明かりに照らされその毛並みは銀色に。
「こうやってゆっくり見れるのも、列車旅のいいところだな」
「うん、二人で同じ方向を見れるもんね」
思い出してみると車の時は、私だけよそ見することが多かった。
「カメラがあればもっと楽しいだろうな。外の景色をパシャッとよ」
「こんな速く動いてるのに撮れるの? この列車、車より速いよ?」
「遠くを撮るなら意外といけるぜ」
カメラを持って、旅に出る。それは、カメラ好きでもない写真好きでもない私が想像しても、すごく楽しそうだった。
「そういえばさ、メメメスって腋の毛もピンクいんだね」
「え……う、うわ! 恥ずかしいぜ」
全裸は恥ずかしくないのに、そこは恥ずかしいんだ……。
「私ってさ、サードステージになったら腋の毛も黒くなるのかな?」
「いや、おまえはまだ生えてないだろ」
「そっか。いいなぁ、私も腋の毛生えないかな」
「いや、生えなくていいぜ。はぁ、カミソリ買って剃ろ……」
ふと思い出す。ナターシャさんから聞いた、私は成長しないって話。なんか私、今日思い出してばっかりだな。
「メメメスってさ」
「ん?」
「私よりわりと、背高いんだね」
いままでこんなに差があると、思ってなかった。
「うーん、まぁ私は背はそんなに高くないほうだけど……ソドムはもっとちっちゃくて可愛いよな」
「えっ」
「お、おまえはそこで恥ずかしがるのかよ」
うん、なんか恥ずかしかった。
「お、車掌さんが来たぜ? はーい、今あけます!」
「まだ夜なのにね」
コンコン。音の大きさも、さっきと同じ。
「待って! 私達、全裸だよ!」
「お……確かに。いや、でも全裸だから開けれませんとは言えねぇよな」
私達、大ピンチ! 二人して裸でいたら、変な人達だって思われて列車から降ろされちゃうかも。
「服、置いときますので。しばらくしたら、扉開けてどうぞ」
「え?」
なんで、服……?
「ねぇメメメス。私達が服着てないって、なんで知ってるんだろ」
「乗車の時、汚れた服で荷物も持ってなかったからな。それ見て、気を利かせて持ってきてくれたんだと思うが……」
たしかこの部屋は、この列車の中で一番いい席なんだっけ? だったらそういうサービスもあるのかな。
「開けてみるしかねぇか。とりあえず体は布団のシーツで隠そう」
「うん」
「いいかソドム。最悪、戦うことになる」
「うん」
きっと戦いだしたら、こんなシーツ邪魔だってほかっちゃうんだろうな。
「開けるぞ?」
「うん」
相手は何人? どんな人? 武器は? コード404は効く?
「な……」
「あ……この服……」
そこにあったのは、よく知っている水色のエプロンドレスと、ピンク色の……これ……メメメスが試合の時に着てたやつだ……。
「列車旅を楽しむってだけってわけには、いかなそうだな」
「うん」
余計なものが取りつけられていないか確認して、私達はそれを着る。
「上から下まで全部用意してくれるとはな。靴も下着も私が持ってたやつと同じだぜ」
「…………」
私達を、博士が待ってる。そんな意味が、そんな意志が、この服には込められている気がした。だって、エプロンに隠れるように不自然に取りつけられたスカートのポケットには、宿に服ごと置いてきてしまったはずの、あの写真が入っていたから。(そして私はメメメスに、それを言えなかった。)




