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ソドム・パラノイア  作者: Y
Sodom/paranoia
219/301

200:個室で全裸

 走る列車の個室の中で全裸。なんだかそんな状況が楽しくなって、私達の会話は弾んでいた。


「そっかソドムはヘヴィメタルが好きか! しかもジャーマン系とは熱いね」

「うん! やっぱりさ、なんていうの? あの金属的なんだけど美しいというか、綺麗というか、まるで物語を聞いてるみたいに変わってくというか! あ、あとヘヴィメタルって言葉もかっこいいね! やー! ヘヴィメタルだぜ! って感じで」

「あはは、なんだよそのポーズ」


 ヘヴィメタルと聞くと思い出す。狂姫(きょうき)さんのことを。あの人はどんな気持ちで、痛みに耐えて生きていたのだろうか。どんな気持ちで、あの日、空に向かっていったのだろうか。


「あ、そういえば車掌さん来ないね」

「ああ、まぁ。明日とかに来てくれるだろ。多分、きっぷの確認かな」

「ん、そっか。あ、メメメス! 見て!」

「おお、砂漠狼だな」


 窓の外を走る、狼の群れ。月明かりに照らされその毛並みは銀色に。


「こうやってゆっくり見れるのも、列車旅のいいところだな」

「うん、二人で同じ方向を見れるもんね」


 思い出してみると車の時は、私だけよそ見することが多かった。


「カメラがあればもっと楽しいだろうな。外の景色をパシャッとよ」

「こんな速く動いてるのに撮れるの? この列車、車より速いよ?」

「遠くを撮るなら意外といけるぜ」


 カメラを持って、旅に出る。それは、カメラ好きでもない写真好きでもない私が想像しても、すごく楽しそうだった。


「そういえばさ、メメメスって腋の毛もピンクいんだね」

「え……う、うわ! 恥ずかしいぜ」

 

 全裸は恥ずかしくないのに、そこは恥ずかしいんだ……。


「私ってさ、サードステージになったら腋の毛も黒くなるのかな?」

「いや、おまえはまだ生えてないだろ」

「そっか。いいなぁ、私も腋の毛生えないかな」

「いや、生えなくていいぜ。はぁ、カミソリ買って剃ろ……」


 ふと思い出す。ナターシャさんから聞いた、私は成長しないって話。なんか私、今日思い出してばっかりだな。


「メメメスってさ」

「ん?」

「私よりわりと、背高いんだね」


 いままでこんなに差があると、思ってなかった。


「うーん、まぁ私は背はそんなに高くないほうだけど……ソドムはもっとちっちゃくて可愛いよな」

「えっ」

「お、おまえはそこで恥ずかしがるのかよ」


 うん、なんか恥ずかしかった。


「お、車掌さんが来たぜ? はーい、今あけます!」

「まだ夜なのにね」


 コンコン。音の大きさも、さっきと同じ。

 

「待って! 私達、全裸だよ!」

「お……確かに。いや、でも全裸だから開けれませんとは言えねぇよな」


 私達、大ピンチ! 二人して裸でいたら、変な人達だって思われて列車から降ろされちゃうかも。


「服、置いときますので。しばらくしたら、扉開けてどうぞ」

「え?」


 なんで、服……?


「ねぇメメメス。私達が服着てないって、なんで知ってるんだろ」

「乗車の時、汚れた服で荷物も持ってなかったからな。それ見て、気を利かせて持ってきてくれたんだと思うが……」


 たしかこの部屋は、この列車の中で一番いい席なんだっけ? だったらそういうサービスもあるのかな。


「開けてみるしかねぇか。とりあえず体は布団のシーツで隠そう」

「うん」

「いいかソドム。最悪、戦うことになる」

「うん」


 きっと戦いだしたら、こんなシーツ邪魔だってほかっちゃうんだろうな。


「開けるぞ?」

「うん」


 相手は何人? どんな人? 武器は? コード404は効く?


「な……」

「あ……この服……」


 そこにあったのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()と、ピンク色の……これ……メメメスが試合の時に着てたやつだ……。


「列車旅を楽しむってだけってわけには、いかなそうだな」

「うん」


 余計なものが取りつけられていないか確認して、私達はそれを着る。


「上から下まで全部用意してくれるとはな。靴も下着も私が持ってたやつと同じだぜ」

「…………」


 私達を、博士が待ってる。そんな意味が、そんな意志が、この服には込められている気がした。だって、エプロンに隠れるように不自然に取りつけられたスカートのポケットには、宿に服ごと置いてきてしまったはずの、あの写真が入っていたから。(そして私はメメメスに、それを言えなかった。)

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