198:汽笛
また聴こえたポーッって音は、あんまり怖くなかった。
「ちょっとは落ち着いたか?」
「うん……」
月が出てる、今日は三つ。(私はそこから、自分で歩いた。ゆっくり。)
「もう撃ってこないな……なんだったんだあいつら」
「せっかく仲良くなった人達に、嫌われちゃったね」
せっかく……メメメスががんばって仲良くなったのにね。
「いや、多分違うぜ。あいつらがコード404を突破できるとは思えねぇ」
「コード……」
そっか、じゃあなんだろ……。
「とにかくあれに乗っちまおう。そうすればしばらくは安全だろ」
「あれが……鉄道?」
ガタンゴトンと音を立てて近づいてくる、なにか。いったい、なんだろう。連なって光ってるの、なんだろう。
「メメメス……どうしよう、私……」
「個室にするから安心しろ。まぁ、駅にいる奴らは気にするな」
「うん……」
汚くて、臭くなっちゃった私。あれ? なんかスースーすると思ったら、寝る時の格好じゃん……私もメメメスも。
「きっぷ二枚くれ、特等室だ。シャワーつきで頼む」
「お客様、そのような……」
「それ以上言うな、殺すぞ」
メメメスが怖いことを言って、私達はきっぷを手に入れた。
「歩けるか?」
「うん」
駅……っていうのかここ。
「ソドムは列車に乗るの、初めてだろ?」
「れっしゃ?」
「ああ、これだ」
私の目の前に、金属製の壁が現れる。窓とドアがたくさんついた、動く壁。そしてまた、ポーッって音。あれ? 今何回ポーッって言った? わかんないや……。ああ、ゴモラ67で見たことあるかもこれ……動かないやつだけど……多分。
「特等室は六号車か」
「メメメス……窓から人が見てる……」
「大丈夫、私の左側にいればおまえのおもらしは見えねぇよ」
プシューとなって、扉が開く。私達はだれともすれ違わず、部屋に入った。
「いい部屋だな」
「シャワーあびたい……」
「いいぜ、私は着替えを頼んでおくよ。超長距離列車だ、そのくらいはあるだろう」
「これ……どうしよう」
血といろいろで汚い服、臭い重たい下着。
「ん、まぁこれにいれて縛っときな」
ゴミ袋。そうだよね、こんなのゴミだよね。
「じゃあ、シャワー浴びてくるね」
狭いシャワールーム。ああ、こぼれた。これ片付けないといけないのか……。
「気持ちいい……」
熱めのシャワーが、私を落ち着ける。(背中はもう熱くない。)
「あ……」
ゴボゴボゴボ。流れていく汚れは、私から出たもの。ああ、これだけ強く流れるなら洗い流しちゃっていいかな? でも詰まって逆流したりしたら恥ずかしいな。止めないと……。
「ひいっ!」
「大丈夫だ、列車が動き出しただけだよ」
ドアの外から聴こえたメメメスの声。そっか、そんな近くにいてくれたんだね。
「この列車……D666型か。ソドム、排水は下に垂れ流しだ。安心して全部流しちまえ」
「え! 地面に私の!」
「あはは。ようやく素の声になったな」
今一番恥ずかしいかも……。そんなことで、もとに戻っちゃうなんて。




