193:寿司のあとにステーキ
「じゃあちょっと待っててください。焼いてきますので」
「焼いて……」
何を焼いてくるのか、それはすぐにわかった。肉、家の奥から流れてきたジュウジュウという音、そしてその音がフェードアウトした、いや、アウトはせず小さくなった後、運ばれてきたのはっ……。
「来たっ!」
まさかこれ、あえて待たせてたってこと? 匂いと音で、シースーによりスペースの少なくなった胃を刺激して……食欲を復活させてから肉に挑ませようってこと? ああ、すごいよ、すごすぎるよ! この食事は完璧に組み上げられた作戦だよ!
「熱くなっていますから、触らないでくださいね」
「待ってまし……あれ?」
なんだこの変な黒いお皿は、なにものってないぞ……。しかも熱いって……嫌がらせ?
「ねぇ、ちょっと」
「はい! 今すぐお持ちしますね」
いやいやいや、その前にこのお皿どけ――って、来たぁああああああ! 肉来たぁあああああ! ああっ、あの堂々たるお姿は!
「ステーキ!」
「はい。鉄板皿の上なら冷めにくいですから、ゆっくり味わってくださいね」
把握! 把握いたしました、この謎の熱い黒いお皿の存在理由! これは肉を冷まさないための配慮皿っ! 熱き優しさのディッシュ!
「はぁあああ!」
目の前で流れ出す、ジュワァ音は耳を癒やしつつも興奮させる背徳のリズム。そしてそれに合わせ踊るような、ピンピン小さく跳ねる茶色い液体。うわ! 飛んできた!
「え、エプロンによる防御が半端ないよ!」
なにを口走ってるんだ私は!
「肉は切っちゃっていいですか? それともご自分で?」
「えっとえっと、おまかせします!」
ここはプロに任せよう。あ、切る、切ってくれるんだね――――はっ、そういえばシースーとステーキって似てるな。スが入るのは高級なご飯の特徴なのかな? いやいや、エビには入んないもんね。うーん、ここに大いなる秘密がある気が……。
「さて、召し上がれ。こちらもお好みで醤油、ワサビをつけてどうぞ」
「は、はい!」
綺麗に切りそろえられたステーキ。素敵!
「では、まずはなにもつけずに!」
たくさんに切ってくれたからね。色々楽しませていただきますよ!
「ふんんんん……すごっ」
ああ、もう私この肉の独特の臭み、好きになっちゃった! なんかもうこのまま噛み続けて、香りで脳を満たしたいよ。
「んん、ん」
柔らかいのに食べごたえがある。はぁ、ステーキ素敵! ステーキ素敵!
「スっっっっっごく美味しいです!」
伝えたい、この気持ち! この感謝を!
「ありがとうございます。新鮮なお肉が手に入りましたので、ぜひ召し上がっていただきたくて」
「こちらこそありがとござます! そっか、新鮮さが大事なんだね!」
野菜もお肉も、大事なことは同じ。
「んん~美味しい!」
「よかったらまだまだ焼きますよ? たくさんありますので!」
「お肉パラダイスだね!」
「ええ、天国ですね」
天国感あるよ。最高の夕飯だよ! しかもおかわり可! あ、そうださっき出てきたご飯に乗っけて食べてみよう。そういえば、お米のことをご飯って言うけど、ステーキとかいろいろな食べ物のこともご飯って呼ぶよね。うーん、ま、そんなことは後々!
「ん! ご飯にあう! あう! あうあう! あうあうあう!」
「今日のお肉はとても濃厚な味ですからね、最高の組み合わせだと思いますよ!」
作ってくれた人も嬉しそう。ああ、ほんと素敵な晩ごはん。メメメスたちも地下でこれを食べてるのかな? ってことは地下は今、すっごくお肉の匂いがしてるのかな? ああ、地下室行きたい! 肉スメル空間に行きたい!
「はぁ、醤油もあうね! あうあうあう醤油あうだよ!」
「わさび醤油もいいですよ。そうそう、これだけ味が濃い肉はなかなか手に入りませんからし~っかり、味わってくださいね」
「そうなんだね、これなんのお肉?」
そうそう。いつかまたこの素晴らしき肉を食べるために、そこんとこしっかり聞いておかないと! ぬかりない! ぬかりないよ私っ!
「あなたのお友達ですよ。あのギャンブルが得意な」
「へぇ! メメメスってこんなに美味しいん――――え?」
え?




