189:ギャンブラー
なんか一回怒ったら冷めちゃったよ。はぁ、結局こんなの運なんじゃないの? 偶然当たってるだけなのに、予測できてるって思い込んじゃってるんでしょ? きっとこんなゲェムやるのはろくでもない――――。
「いや、俺達が悪かった……素人さん相手につい怒鳴っちまって。気を取り直してやり直そう! さぁさぁ、これからの未来、上か下かどっちだ?」
う……今謝られると、超気まずいんですけど。でもまぁやっぱり悪い人たちじゃないのかな……ってあれ! 再開してるよねこれ! もう勝手に再開しちゃったよね!
「上だ」
メメメスも賭けてるし!
「お、確かに今かなり上がってるからな。俺も上でいいと思うぜ」
でもまぁ、今は上って感じだし……いけるかな。うんうん、勝てそう勝てそう、上がってる上がってる、あと少しあと少し……って下がったぁああああ!
「残念、下だったな。まぁ、次は勝てるさ」
そんなぁ!
「さて、さて、もうひと勝負だ。ツキを取り戻してくれよ? 稼いで帰ってもらわなきゃうちの賭場の評判が落ちちまう。いくぞ? これからの未来、上か下かどっちだ?」
「次も上で頼む」
「また上か? 大丈夫か?」
え、また上? 上で負けたなら次は下で良くない? なんかめっちゃ同情されてるじゃん。
「ああ、だめぇ……」
思わず声が出る。だってグラフ、超下がってるし……。
「お嬢ちゃんの負けだ」
「そうか。悪いが私の金は今、なくなったぜ」
えええええ。使い果たしちゃったの? なんでちょっと残しとかなかったの? 勝ってた時のぶん残ってたよね? 全部賭けちゃったの? ねぇ! っていうかなんでお金なくなったのに、ちょっとかっこいい感じで言ってるの? なくなったぜじゃないよ!
「おつかれさん、悪くない勝負だったよ。金ができたらまた来な……ってなんだその餓鬼、髪が黒くなってきてるじゃねぇか。妙な改造しやがって、きもちわりぃ」
全員が私を見る。ああ、髪の色が変わって面白いから見てるのか。これね、サードステージっていうんだよ……髪だけじゃなくて気持ちも真っ黒……ってほどでもないかな今日は。でもなんか、簡単にサードステージ出るようになっちゃったし、こんなに落ち着いちゃってるんだね、今の私。痛みもちょっとしかないし……。
「ソドム、落ち着けよ」
「落ち着いてるけど嫌な気分」
「そうか。まぁ暴れてくれるなよ」
そんなこと言われてもさ……。お金、なくなっちゃったんだよ?
「おいてめぇら、金がねぇならさっさと出てけ」
「このっ!」
それ、今一番言われたくないことだから!
「ソドム、やめとけって。大丈夫だから」
「なにが大丈夫なの!」
メメメスのせいでお金なくなったんじゃん!
「いいからいいから。私に任せてくれよ」
なにを任せるのさ! ああ、どうしよう。気持ちと呼吸が荒くなる。
「ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぅっ、ふぁぁあん! ってなにするの!」
いきなり耳に息! フッてやられた! メメメスに!
「いや、気がそれるかなって」
「それないよ!」
そんなことじゃそれな――いや、それたけど! それたけどさ!
「おい、帰る前に一つ聞きたいんだが、そのグラフなんで今そんなに上がってんだ?」
メメメスまだグラフ気にしてるの! 賭け事好きすぎでしょ――――あれ? グラフ超上がってる……なにあれ……なにあれ、おかしいぐらい上がってるよ? え、なんであんなに……怖い。グラフが画面の天井にくっついて、まっすぐになっちゃった。
「対象範囲の暴力の総数が上がればグラフはのぼる。でもこの伸び方は異常だぜ? 百パーセントラインに張り付いてるなんて、どう見てもありえねぇ。対象範囲の都市Aで、大虐殺でも起きたか?」
あれ、都市Aってどっかで聞いたことある気がするけど……いつだっけな。
「そうかもしれねぇな。あそこはできたばっかで不安定だって言うし。まぁ、別にそんなこたぁいいじゃねぇか。そうだ、サービスで最初の賭け金を返してやろう。無一文じゃ困るだろ。これで飯でも食え」
「よかったねメメメス、お金返してくれるって!」
なんだ、優しい人達じゃん。(と思ったら、サードステージが終わっていく感触があった。ああ、なんて現金な私! うん、きっとお腹すいてるんだな。)
「これは私の予測だが、今から九十秒後には、グラフがしっかり下がってるはずだぜ」
ん? メメメスまだ賭け事やってるつもりなの? お金返してもらって帰ろ? もう賭け事はダメだよ?
「ソドム! あのコンピュータを触らせるな! とれ!」
「え、うん!」
とりあえず言われたままに、モニターにつながった小さいコンピュータを確保! 一人突き飛ばしちゃったけど。あ、もちろん手加減したよ? お金返してくれるって話がなくなったら困るし。
「ソドム、そこに対象範囲はなんて書いてある?」
「たいしょーはんい?」
「あーいいや。見せてくれ」
メメメスはコンピュータを覗き込んでニヤリと笑う。
「随分と狭い対象範囲だなぁ、半径五メートル。ちょうどこの部屋が収まるくらいか? しかもこれは現地モードだな。おいおい、グラフへの反映時間も遅らせてあるぞ? なんだこれは? ええ?」
「…………」
えーっと……。
「だからなんだよ、てめぇらここから無事で出れると思ってんのか!」
えーなんで急に怒り出したの? あれ、さっきすごい伸びてたグラフが……下がってる。っていうか普通に戻ったね。うんうん。都市Aは大丈夫だったってことだね、よかったよかった。
「逆ギレしてくるってことは、そういう話でいいんだな? ソドム、こいつらは総数ゲェムから殴り合い勝負に切り替えたいらしいぜ?」
「え? そうなの?」
「なめてんじゃねぇぞっ……な、なんで攻撃できねぇんだ……」
私から狙ってきたね。
「小さい方から狙うとは下衆だな。でも無理だぜ? ソドムはコード404で守られてる。狙うなら私にしな」
「コード404だと……」
えっと、確かにそうですが。




