187:ここ肉を焼いている!
戻ってきたメメメスは何故か現金を持っていて、私が理由を聞くと「気にすんな」と言った。さっきのおじさんを、脅しでもしたのかな?
「ねぇメメメス、ご飯食べようよ!」
「いや。鉄道のきっぷも現金のみらしいからな。やるしかねぇ」
「え! それじゃあバベルに行けないってこと? って、やるってなにを?」
「賭け事だ。安心しろ、私は結構得意だぜ?」
賭け事がなんなのかわからないけど、ご飯ではなさそう。はぁ、お腹すいたな。
「ここか」
えっとここは……ご飯屋さん? え、ここ入るの? え、入るの? え、やったー! ご飯屋さんに入ったよ! うひひ、なんだかんだメメメスは優しいなぁ。賭け事とかいうのをする前に、腹ごしらえってことだよね! うひひ、ここはどんなご飯かなぁ……なんか美味しい匂いが、あ、肉! ここ肉を焼いている! 肉を焼いてるよ、ここのご飯屋さんは!
「いらっしゃいませ、席はお好きなところに――」
「席はここじゃねぇ。私はやれるって聞いてきた客だ」
「……こちらへ」
え、注文しないの? ねぇ。って、なんで席に座らずキッチンの中に入ってくの? キッチンはご飯屋さんの秘密がたくさんあるから、素人が入ってはいけないって聞いたことあるんだけど……って、うわ……地下室に降りるのね……。はぁ、ご飯はしばらくお預け……か…………。
「メメメス、私あんまり地下室好きじゃないんだけど」
「奇遇だな、私も地下室は苦手だぜ」
私はオババの地下室を思い出しちゃったんだけど、メメメスはなにを思い出してるのかな?
「うわ、暑っ」
大きなモニターが一つだけある狭い地下室には、人が十人くらい。一応スペースに余裕はあるっちゃあるんだけど……むんむんして暑い。
「よそ者か」
「悪いな、混ぜてもらうぜ。で、勝負はなんだ? こいこいか? それともポーカーか?」
こいこい、ぽーかー。なんだろその気の抜ける響きは。ここの雰囲気にぜんぜんあってないよ。
「総数ゲェムだ」
「チッ、あれか……。まぁいい、やろうぜ」
「メメメス、ソースーゲェムってなに?」
はっ、ここはお肉焼きやさん、つまりお肉にかけたソースの味を当てるゲェム……って、そんなわけないよね。
「あれだ」
モニターの電源がつけられる、まるで、私達を待っていたかのように。そして、そこに映し出されたのは……。
「なにこれ?」
「グラフだ」
グラフって多分……この、尖った山みたいな形を作りながら動いていく、緑色の線のことだよね? うむむむ、なんだこれ? この動きになんか意味があるんだとは思うんだけど、意味分かんない。あ、横に数字が出てるね。ふむ、山が高くなると数字が増えて、山が低いと数字が少なくなるのかな?
「暴力の総数グラフ、レウダ・ラン・シュタインが考案した計算式で、世界の暴力総数の増減を折れ線グラフで現してるんだ」
「えっと」
メメメスさん。難しいです。話が。
「うーん、なんていうかグラフが上に上がれば世界の暴力が増えてる、下がれば減るって感じだな」
「世界の暴力ってなに?」
「おい、ここは賭場だ。雑談したいなら出ていけ」
「ああ、わかったよ。勝負時間は何分だ? あと範囲対象は?」
うわー、またわからないまま進んでいくパターンだ!
「範囲対象は都市Aだ。時間は好きに設定しろ、客扱いしてやるよ」
「なら一分で頼むぜ。さっさと稼ぎてぇからな」
一分と聞いた途端、そこにいた人たちが笑った。マジかよだとか、チャレンジャーだなだとか、明らかにメメメスを見下している。うん、なんでそうなったか全然わかんないんだけど。




