185:強い瞳
メメメスの車はなかなか乗り心地がよくて、すごくいい感じ……と思ったら、メメメスは次についた村であっさりとそれを売ってしまった。
「メメメス、いいの? お気に入りじゃないの?」
「気に入ってたけどまぁ、ここから先は鉄道のほうがいいからな」
「私のために売ってくれたの?」
「気にすんな。私はおまえを守るって決めたんだからよ」
本当にいいのだろうか?
「さて、きっぷを買いに行こう。時間も見ねぇと」
「なんの?」
「鉄道だよ、動かないやつがゴモラ67にもあったろ?」
てつどう……うーん……あったかなそんなの。
「ねぇ、あれなんて読むのかな?」
「砂塵駅、ここの駅の名前だ」
「駅?」
ふと思う。なんでメメメスは、バベルへの道に詳しいんだろう。
「ねぇメメメス、なんでバベルに行く方法を知ってるの?」
そしてすぐ聞く、私。
「ん? ラヴちゃんに頼み込んで情報を売ってもらったんだ。聞いたら、バベルの低いところまでは行ったことがあるとかでさ」
「え……ありがとうメメメス!」
「いや、まぁ、どうせソドムはなにも考えずに出ていくだろうなって思ってたし」
う、その通りでした……。
「ねぇメメメス、メメメスは都市Zにいたらお金持ちで平和に暮らせたんでしょ?」
「うん。そうだな」
じゃあなんで?
「わからねぇか。まぁ、私もわかんねぇんだけどさ。今度は本物の自分で、おまえと生きてみたくなったんだよ」
「うん……」
わかるような、わからないような。でもすごく、暖かくて熱い思いをもらったような。
「どうしたソドム」
「うひ、なんか涙出ちゃった」
ありがとう。ありがとうメメメス。なんか今日の涙は、出るところに詰まってる気がする。
「ああ、そうだ。もう一個伝えておく。この顔は――」
「作った顔……だよね? それも、私との再会のためにわざわざしてくれたことなの?」
メメメスの可愛い顔は作り物。でもそれはクローンの話。つまりメメメスは、再会のためにクローンでやったことと同じことをまた――――。
「最後まで話を聞いてくれ。まぁ、そう思われるとは思ってたけど」
笑うその顔は、やっぱり可愛い。
「これはさ、なにもいじってない元からの顔なんだ。ラヴちゃんが言うには、クローン体が本能で顔を戻すことを望んだらしい。顔を作る時に細かくこだわったのも、そのせいだって」
「ってことは、違う顔のクローンを作って……それがもとに戻ったってこと?」
えっと、メメメスは元からこの顔で、クローンになった時は違う顔で、ゴモラ67で顔を改造して、今の顔と同じにして、でもその時は顔を戻してるんじゃなくて変えてるつもりで……。うん、なんか今日はちゃんと理解できてる感あるね。
「ああ。正確には、クローンだから作ってから顔を変えて、それからゴモラ67に送ったんだ。あの時の私は、自分でいたくなかったからな」
そっか、私は自分の顔についてあんまり考えたことないからよくわからないんだ。同じ顔と出会っても、大して気にしなかったくらいだし。
「でもなソドム、私が自分自身でいたいと思えたのはおまえのおかげだ。だから私と、生きてくれ」
「う、うん」
あれ……メメメスって、こんな強い瞳をする子だっけ……。




