diary「珈琲を飲んだのはだれ?」
555555733000:/YF。この意味深な羅列は、科学者がよくやる悪ふざけだ。科学という歴史、その研究者という難解な存在。それらを後ろ盾に、さも意味ありげに唱えた大して意味のないもの。優れた知能を持つ人間が言うのであれば、きっと深い意味が隠されているに違いない。そう思わせることで無駄に悩ませ、思考を狂わせる悪戯だ。
私は発見するその日まで、555555733000:/YFという文字の並びを一度たりとも見たことはなかった。だが、この作りを見ればわかる。これが、別の世界で、何度も象徴のように繰り返し表示されたものだと。その結果をもってしてこの世界に用意されたこれは、無意味の癖に意味を持たされようとしていると。
「ここに私以外のラヴクラインが来たのは約百年ぶりだ。ああそうだ、おまえのことは博士と呼べばよいのかね?」
「百年、意外と最近じゃないか」
私のことなど、好きに呼べばいい。
「日本があった時はもっとたくさんいたのだがね。もうオリジナルは私一人しかいないのだよ」
「オリジナルが一人? 理解しがたい価値観だな」
完全な人工生命体、そのオリジナル。では、彼女がオリジナルと呼ばないクローンとはなにか?
「しかし見事にソドムを調整したものだな。心は傷まなかったかね?」
「それは褒めているのか?」
「ああ、まさかラヴクラインを三体も経由し妄想の中にだけある現実
を逆算、555555733000:/YFを取り出されるとは思わなかったよ。終わりに隠しておいたのに、見事なものだ」
「555555733000:/YFとはなんだ?」
あえて聞く。私は今そんな気分だ。
「555555733000はナノマシン。:/YFはなんだったか……まぁ、なんにせよ、単純な法則で作られた言葉遊びだ。そこに特に意味はない」
「言葉遊び? 不思議の国のアリスを気取っているのか?」
「ああそうだ。アリスは言葉遊びの物語だからな」
「アリスは夢から目覚めて終わる、だからそこにいる――――。まぁいい、その話は後にしよう」
今あれについて議論しても仕方がない。問題は、意味よりも意思なのだから。
「さて、珈琲でも飲もうじゃないか」
「珈琲は薄めにしてくれたまえ。濃い珈琲を淹れてもらう相手は決めているのでね」
「味以外に拘るか。実に素晴らしいことだ、さすがは私のクローンだな」
ソドム、おまえはここにたどりついてくれるか。私を追いかけてきてくれるか。私はここで、お前を待っているぞ。




