diary「内側の肉」
リディアさん。私はあなたが、ラヴクラインだということを知っています。でもあなたは、私があなたのソドムだったことを知ることはないでしょう。
このナターシャという女性は、あなたの生きる道に交わる確率が高く、そして大きな体を持っていました。だから私はその中に溶け込んだのです。あなたのくれたナノマシンの性質を利用して。
本当に偶然だったんですよ、私自身をあそこまで細かく分解できるって知ったのは。でもあなたは、それに気がつけなかった。でもそれでいいんです。こんな事知ってしまったら、あなたはまた努力しないといけませんから。
「リディアさん、虐殺の愛さんから通信です」
「そうか」
虐殺の愛。私と同じ、この物語の裏方に徹すると決めた人からの通信。
「なんの用だ?」
きっとドクターが自殺でもしたのでしょう。あの人は、ソドムを完全に失ってしまいましたし。
「そうか。ソドムはどうした」
リディアさん、あなたが正常でいられるのは私が存在しているからです。でもあなたは、自分が狂っていると思っている。だから、懺悔するかのように生きている。そうすることで、狂わずに耐えることができると思っている。でもね、それ全部私の影響です。(でもあなたは気がつかない、何故ならあなたはラヴクラインでいることをやめたから。)
「同行者は」
ああ、優しい私のラヴクライン。これからも私と脇役でいましょう。ソドムが戻ってしまったら、あなたのもとに私がソドムとして戻ってしまったら…………あなたはまた、バベルを目指してしまうでしょうから。
でも、そのままでいてくださいね。だってそうならないように、私はナターシャに同化することで自らの性質を変えたのですから。そうですね、私達は二人で、ソドムとラヴクラインであることを捨てたのですね。(或いはおそろいを望んだのか?)
そして――その結果私達は。
実験本能、ラブクラインを縛る鎖。あれに勝つことができました。
――― ―・・・・・・と、ここまでが私の理想です。
そう、理想。理想は理想で、現実は甘くない。
いつか気がつかせてしまう日が来る。特異通過者であるナターシャが、想像以上に長く生きることに。
生命を加速させコード404が追いつかないようにする、特異通過。これはつまり、苦痛の前借り。寿命を消費する速度をあげることにより、コード404の影響から逃げ切る。だから、私があなたの前から消えない限り、あなたは見てしまうのです。Наташаが崩れ去り、中から私が現れる時を。だって、その時私は、ナターシャと共に消えることを選べませんから。逆らえない意思で結合し、またあなたの前にソドムとして現れることになってしまうのですよ。
「おいナターシャ、貴様なにをボーッとしている」
「あっ、すいません。ボーッとしてしまいました」
そしてその時どうするかは、その時考えましょう。二人で。
「なにを言ってるんだおまえは」
「えっと……あはは、ボーッとしすぎましたね」
「まったく、貴様は私の右腕なんだ。気を緩めないでくれよ」
大好きですよ。気を張り続けて生きて、時々、極稀に気が緩んで、おまえなんていう昔使っていた言葉を出してしまうところなんて特に。人はね、どれだけ姿を変えても変われないんですよ、リディアさん。




