19:zombie・bad・day―注意散漫つまづいて―
私が半強制的にダッシュさせられた先は、ゾンビが数体集まってるらへん。改めて見ると高い壁……ゴモラシティって囲まれすぎだよね。ああ、あんなところに穴が開いてるからゾンビが入ってきちゃうのか。
「はぁ」
相手はゾンビ、そうゾンビ。歩く死体であるゾンビを相手に、私が苦戦することなんてない。どうしてこんな楽なことがトレーニングなのか。ゾンビは臭いしグチャッってなるから、精神力を鍛えるにちょうどいいとか?
「うおおおっ!」
声を出して気合を入れてみたのは、ゾンビに申し訳ない気がしたから。一応噛みついてこようとか、掴みかかってこようとすることもあるけど、私からすれば無抵抗も同じ。だからあんまりポンポン倒しちゃうのも、悪いかなって。
とか考えてるうちに近くで動いてるのは、残り一体。うん、なんだこの無駄なトレーニング……。
「!」
光? え――――音? 何……痛っっっっっっ!
「痛ったあぁあああああ!」
煙と衝撃、爆発物! 痛い、力が入らない。足首が……。
「うぐっ、いぎっ……つあああっ!」
足の痛いところに何か――うわ、ゾンビだ、爆発で倒れたゾンビが足にぃいい。うう、いろんな意味でつらい。
「はぁっ、はぁっ」
痛いよ、博士……そうだ、博士は来れない。こんな危険なところに来れない、来ちゃいけない! だから自力で帰って博士に足を治してもら…………。
「!」
ゾンビに足を掴まれて、倒された。そして、手をついたところがピカッ!
「うあああっ!」
また爆発。これ、対生命体地雷だ……。そっかゾンビはやっぱり生きてないのか、だから踏んでも何の反応も――――。
えっと今掴んできたゾンビは……よし、動いてない。はぁ、まさかゾンビなんかに転ばされるなんて。ああ、もうゾンビゾンビ、近づいてきたよニューゾンビ。もう今日最悪……ゾンビ・バッド・デイだよ。
「はぁ……」
さすが博士の作ってくれた腕、爆発を受けても問題なし。地雷は小型、四肢の破壊を目的としたタイプ。よし、この程度のなら傷もそんなに深くないはず……痛い痛い痛いっ! いきなり痛いっ! 足首痛ぁ! 痛い! 痛いってば! ああ、もうころんだ時にやっちゃったかな。でもとにかく今はここから離れないと。
「もと来た道は……」
あの瓦礫から飛び出している鉄柱なら、動く方の足だけでジャンプすれば届く。それからあそこにいるゾンビの肩に飛び乗って頭を手で蹴っ飛ばして、次はあれを足場にして……うん、うん、うまくやれば地面を踏まずに戻れそう。よし、とりあえず立ち上がって、ってあれ? 私の足…………。
「つあああっ!」
足は、なんの問題もなかった。そう、普通に立ち上がれたし、痛みも消えていた。あんなに痛かったのになんで? と、驚いた私は注意散漫つまづいて、また対生命体地雷を踏んでしまったとさ。(だから声が出ちゃったってわけ。)
うん、なんか冷静になってるけどね、めちゃくちゃ痛いです。威力的に足がちぎれたとかはないだろうけど、感触的に結構エグいはず。見たくない、見たくないけど傷の状態を確認しないと……。
「痛っ! あ、え……なにこれ」
私の目はハッキリ見た。バックリ開いた傷口の中がもぞもぞ動いているのを。え? は? え? は? えええ? は? きもちわるっ!
「ぇ?」
うぞうぞ動いて伸びた。そしてそれが、私の傷をくっつけて塞いでいく。うん、なんだこれ。意味分かんないんだけど。あと、超痛い。
「……な、なにこれ」
痛い、すごく、とても、超、めちゃくちゃ痛い。見ている私は、この傷が治っていく動きがすごく痛いってことをちゃんと理解している。でも、苦痛の声をあげられないほど私の足がおかしい。だって、元通りだよ? 靴とか靴下はふっとんじゃったけど、傷が治っちゃったんだよ? ね? ほらもう痛くない。御覧ください! あれだけひどかった傷も、何事もなかったように元通りです~ってなんだこれ! なんだこれぇえええええ!




