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ソドム・パラノイア  作者: Y
diary/six+1/song
199/301

diary「黒い狂気」

 わたくしを死なせなかったのは、妙に()()()()()()()調()で話すラヴクラインでしたの。はぁ、()()()()()()()()()()()()()()も……大概ですわね。


「義手に義足、まるでソドムみたいですわ。こうまでして生かしてくれなくて良かったのに」

「ラヴちゃんと呼んでくださいねぇ!」

「はいはい」


 さすがに、今から死んでやろうという気は起きない。でも、それはそれだけの話だ。


「どうですかぁ? ナノマシンの入ってない体は」

「力が入らなくて不安ですわね」


 私はあの戦いで、体内のナノマシンをすべて消耗した。いや、高い技術力で消耗させられたと言うべきか。この、ラヴクラインに。


「まぁいいじゃないですかぁ! おかげで普通の生活ができるんですからねぇ! これからよろしくお願いしますぅ、ソドム-Y」

「なんですの、その名前は?」

「欠番が出たのでぇ。あなたにあげようかと思いましてぇ!」


 この女と暮らしていくのは、正直頭が痛い。でも、力を失った私には生きていく場所が必要だ。生きていく、つもりならば。


「そうそう。あなたを博士が利用しようとした……ってのは嘘でしょう? あのラヴクラインのソドムへの固執は異常。バックアッププランなんて、走らせるわけがないですからぁ」

「そうかもしれない……ですわね。ああ、そういえば、わたくしのラヴクラインも異常でしたわよ? あなたもどう見ても異常ですし。つまりラヴクラインはみんな、異常者――――」

「あなたのラヴクラインは、虐待なんてしてないですよぉ。手を上げたことは一度も――」

「適当なことを言わないで! ()はあの人に何度も、何度も!」


 ああ、ナノマシンの入っていない体はこんなにも非力なのか。


「その手、離してくださいます? あなたに抑えられるとピクリとも動けませんの」

「そりゃそうですよぉ。私、超強いですからぁ。そもそもぉ私が強くなろうと思ったのは、あなたみたいな弱虫の屁理屈じゃなくて――――」


 Sリーグ選手、虐殺の愛(ジェノサイド・ラヴ)。なぜ、そうなろうと思ったのか。ラヴクラインがそうなる必要は、あったのだろうか。


「ごたくはいいから、さっさと離してほしいですわ」

「あなたはソドムというより、アリスに近い性質を持ってしまったのかもしれませんねぇ」

「言いたいことがあるならはっきり言って!」

「だめですよぉ! ですわですわって喋ってくれなきゃ可愛くないですぅ! まぁ、なんでもいいじゃないですか。私達はもう、あの塔には届かないんですからぁ」


 髪も金色、痛みもない。あるのは、()()()()()()すら出せない、()()だけ。ああ、こんなの、こんなのわたくしじゃない。


「あなたのナノマシンは、進化方面へのアップグレードなんてされてませんでしたよぉ? あったものは、ナノマシンを一箇所に集合させるプログラムの追加。おかげで私でも簡単に対処できましたぁ! 博士に感謝ですねぇ、あのままナノマシンを入れ続けていたら、今頃バラバラですよぉ! ナノレベルで!」

「私は……なんなの…………」

「さあ。なんでしょうねぇ。その答えは、あの塔にのぼったものだけが知れるんでしょうねぇ」


 そっか。私の戦いはもう終わったんだ……。


「あなたの体内にあったナノマシンは、バベルが用意したもの。そして、そのナノマシンの改良に失敗したラヴクラインがいた。だからあなたは暴走した…………つまり、全部全部あなたのせいじゃないんですねぇ! まぁ、これも全部全部、ぜーんぶ、私の適当な憶測ですけどねぇ……全部、全部……全部憶測…………はいっ!」

「なっ、なにをするんですの?」

 

 おでこになんか貼られた……。


「うんちシールです! これを貼られたら強制的にお休み! いいじゃないですかぁ、あなたはもうがんばった、もうたくさんがんばったんですからぁ。もうがんばらなくていいんですよぉ、もう」


 抱きしめられたその腕に私は――――懐かしさを感じていた。まるで、ずっとそうしてほしかったかのような、乾いた花のような懐かしさを。


「あたたかいでしょう?」

「不快ですわ。あと息が臭いですの」


 そうだ、そうだそうだ……間違いない、私はこの鬱陶しい体温を知っている。胃でも悪いのかと尋ねたくなる、酸っぱい匂いの息も知っている。


「ひどいですねぇ」

「ええ、ひどく臭いですわ。でも――――」


 ええ、思い出しましたわ……きっと全部ではないけど……思い出したよ、私……。


「もうしばらく……このままでいて」

「はい、わかりましたぁ」


 やっぱり近くで呼吸されると、臭い。ほんと、いつもそうだった。それでもこの人は、いつもいつも私を抱きしめてきた。私が、どんなに嫌な顔を見せても。


「おかえりなさい、ソドム」

「ただいま」


 そっか。あの傷は私が…………この人がくれたものだと思いこんでいたから、消えなかったのか。

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