diary「虐殺の愛」
結局、あのソドムは一度もSリーグ選手として試合に出ないまま、あなたのところへ向かいましたね。それもあなたの策略でしょう? ね、博士?
「ラヴちゃん、お茶が入りましたよ」
「あらぁ、ありがとうございますぅ!」
「医者の次は小説家ですか?」
「私は最初からこれがやりたかったんですよぉ」
バベルの頂上。オリジナルが私達のところへ下りてくることはあっても、私達があの場所まであがることはない。そう思い生きていた私だからこそ、コードのありかに気がつけなかった。あんなに身近にあったのに。いや、私はコードを一度手放した…………そうか、あの時に私の敗北は決まっていたのか。我ながら、なんとも恥ずかしい見落とし……いや、見落としたように思い込む日々でしたね。
「あ、そういえば……」
「どうしたんですかぁ? ソドム-X」
「ラヴちゃんがソドム-Yの足につけたナイフは、どうなったんでしょう? ゴモラ69の決勝戦の時の。今でも愛用してるのでしょうか?」
「ああ、あれですかぁ! しっかり置いていかれましたよぉ」
あなたが思っている以上に、あなたのソドムは危険な存在ですよ。私が与えたナイフを、玄関に突き刺して出ていくような子ですから。しかもナイフには、あの日以降に使用した形跡がない。本当に本当に危険な子に育てましたね。ああ、そういえば右目に仕込んだカメラを取り外されたこともあったっけ。私はどうしてその時に気がつかなかったんでしょうね、あなたのソドムの異常に。
「ふふ……」
「どうしました?」
「所詮私は、凡人なのかもしれませんねぇ」
これから世界がどうなるかは知らないけれど、ゆっくり生きさせてもらいましょう。ただの個人として、ソドムたちのために小説を書きながら。
「そういえばソドム-X、どうしてナイフが気になったんですか?」
「旅に出るなら、新品に取りかえてあげればよかったなと思いまして」
「優しいですねぇ、あなたは。私に似て」
「そうですね、ラヴちゃん」
そしていつか私は思うはず。ああ、主役じゃなくて良かったと。




