182:速度
モラルタはびっくりするほど速かったです。はい。
「うあ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
『ソドム! 落ち着け! 大丈夫だ!』
耳につけた機械から聞こえてくるメメメスの声。落ち着けって言われても無理でーーーーす!!!! よ!!!!!!
「はやっ、はやっ! はやぁああああああああああああああ」
『止まれる! 止まれるから!』
止まる? と、止まる? どうやればいいのっ!
『左手で握ってるレバーだ! それをゆっくり引け!』
「左ね! っうわぁ!」
なんか出た! なんか発射されたぁああああ!
『そっちは右だ!』
「あ、え、あ、こっちか! うぎっ!」
首がっ……急に止まったせいで……。
『思いっきり引きすぎだぞ……』
「うう、わかんないもんそんなこと! だいたいなんでメメメスはわかるの!」
『ご、ごめん……こっちにはマニュアル表示されてるし……』
それ、飛ぶ前に見せてよ。
『左のレバーを前に倒せば速度が上がる。全開まで倒すなよ? 馬鹿みたいにスピード出るからな』
「う、うん」
『急いで止まりたい時はそれを引く。すぐ止まらなくていい時は手を離すだけでもいいが、速度が出てるとそれなりに飛び続けるから調整を――――』
「うん……ん?」
『右は実弾の発射ボタンだ。さっきは海の方だったから良かったけど、建物とか人に当たるとヤバイから今日はもう絶対に押しちゃだめだぜ』
え、教えといてよ。ガチで。
「はぁ、で、なにをすればいいの……って、うあ……高いっ……」
『どうしたソドム?』
「高い……足元っ、落ちたら死ぬ……」
え、え。私なんでこんな高いところにいるの?
『落ち着け、深呼吸だ』
「やだやだやだ……怖いよ……怖いよ」
帰りたい、こんなとこいたくない。
『おい、おい!』
「あ、あえああああああああああああ! なんで、なんでまた飛んでるの! ねぇ! 嫌だよぉおおおおおおおおお! 飛びたくないよおおおおおおお」
『レバーから手を離せ! そうすればじきに止まる!』
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
『ソドム! ソドム止まれ! そのままそっちにいくと街の外に出ちまう!』
え。そっちがなに? え? は? え、あれ? 街が……ない? ここは海の上? は? へ? 海に落ちたらどうなるの? えぇ? え?
「メメメス止めてぇええええええええええええええええ!」
『手を離すんだ! 早く!』
「離すっ……離すって、え? え? どうしたらいいの?」
『だから手を離すだけだ! 左手を! 左手を離せっ!』
「離したら落ちちゃう、落ちちゃう」
『落ちないから! 落ちないから大丈夫だ!』
ねぇ、なんで、なんでなんでなんでこんなに速いのっ!
「止まっ……れぇえええええええええ止まれ止まれ止まれぇええええええええ止まってぇえええええ」
『ソドム止まるな! 戻れ! ディスクリミネータだ! ディスクリミネータがおまえのほうに向かってる! 今すぐ戻ってこい!』
止まれとか止まるなとか……え? ディスクリミネータ?
「え。え!」
『そっちじゃない! 戻れ!』
だって、体の向きの変え方わかんな――――。




