181:モラルタ
私は痛みで動けなくなり……翌日。改めて写真で見せられたモラルタは、そんなに大きなものではなかった。私が背負うなんか火がブワーッと出そうな部分。そこについた金属の羽。右腕にとりつける、大きな大きな剣。そしてその色は全て、黒。
「素材は黒き狂気兇器強姫がスカーレットと戦う時に、博士が提供した剣と同じですぅ。塗装しているから、色は違いますけどねぇ頑丈ですよぉ! まぁ、その腕に使われている金属ほどじゃないですけどぉ」
「私の……腕」
あの時の剣、私の腕と同じ金属じゃなかったんだ。だから、スカーレットに溶かされて……。
「それでもすっっっっっごく高いんですよこれぇ? 私の愛機にも部分的にしか、使えなかったんですからぁ!」
愛機ってもしかして……ラヴちゃんが、私とメメメスをゴモラ67に迎えに来る時にのってた航空機?
「まったく、博士はあなたの腕の金属をどこで手に入れてきたんでしょうねぇ。ゴモラ69にいた時に分析しましたが、異常ですよぉそれは! あ、腕だけですけどねぇ。右足はモラルタと同じものですよぉ」
そんなにすごいんだ、私の腕……。
「どんな金属なの? 私の……」
「んー。今の所不明ですねぇ。モラルタに使った高級合金を偽装しているようですがぁ、全く別物でぇ。偽装技術もかなりのものですぅ! はぁ、私より天才のラヴクラインなんて、オリジナル以外で初めて会いましたよぉ」
そんなにすごいんだ、博士……。
「さて、お喋りはここまで、モラルタの格納庫まで移動しますよぉ。あ、そうそう。さっきから空気と化してるドクターさん、ディスクリミネータ本体の動きはどうですかぁ?」
「相変わらず飛行負荷が少ない空域を巡回中だ」
今日のドクターは淡々としている。そしてその理由がなぜか、理解できる気がしてしまった。
「そうですかぁ。どっかの高負荷空域に入ったところが勝負ですねぇ。こっちは一機しかいないですからぁ、あんまり自由に逃げられると手におえませんのでぇ。いいですかソドム、チャンスは少ないですよぉ?」
こうふかくういき……そんな専門用語で言われても、よくわかんないんだけど。
モラルタは街で一番高いビルの最上階で、静かに私を待っていた。(本当に私を待っていたみたいで――――。)それは写真で見るよりもずっと、力強いものに見える。(感じる。)
「さてソドム。装着しますよぉ。早速、稼働テストですぅ!」
「う、うん」
モラルタの中央には、ちょうど私が入れるくらいの隙間があって……。
「うわ!」
「自動装着ですからねぇ、ほら、じっとしてあげてください? モラルタが迷ってるじゃないですかぁ」
か、勝手にくっついてきたよ……モラルタさん、生きてるみたい。
「どうですぅ?」
「お、重たくないんだね」
「ええ。反重力、とでもいいますかねぇ。燃費を良くするために試行錯誤したんですよぉ。まったく、一週間くらいでやらされましたから、本当にみんな疲れて疲れて疲れましたよぉ!」
「みんな?」
コロコロ。足元から音がして……そこにいたのは、車輪のついた四角い箱の上にのった私と同じ顔。そしてその後ろには、メイド服を着た…………私が少し成長したかのようなよく似た顔。
「そ、ソドム-A! それにソドム-Xも!」
「私ほどの天才がぁ、バックアップをとってないわけないじゃないですかぁ! とれてないのは私だけ。各ラヴクラインのバックアップはオリジナルから禁止されてますからねぇ。物理的にぃ!」
みんな……生きてたんだ。
「さてソドム、飛行テストしますよぉ? センチメンタルタイムは終わりですぅ!」
「えっと……」
「メメメス、しっかりサポートしてあげてくださいねぇ。ああ、今日は処理速度向上剤はやめておきましょうかぁ。あれは本番だけでじゅうぶんですぅ」
ゴゴンと音がして、私の視線の先で壁が開く。うわぁ、いい天気……って、え、え……なに? なに? なんか秒読み開始してない? 9、8、7……え? ええええええ?




