180:航空兵器
私は唇の内側を小さく噛みちぎり、無理やり呼吸を落ち着けた。血の味が一瞬しかしないのは、ナノマシンが傷をすぐ塞いでしまうから。
「はぁっ……ラヴちゃんはなにが目的なの」
「いや、この話は私が――」
「ドクターは黙ってて!」
多分、今の私はラヴちゃんよりも強い。でも、攻撃できないんじゃその強さも意味がない。
「目的? ないですよぉ、今の動機はただの興味ですねぇ。バベルがまだ攻略しきれていない大戦兵器を、先に破壊する。それがすごく面白そうなのでぇ! ま、ささやかな嫌がらせですよぉ」
「わかるように言って!」
「相変わらず馬鹿ですねぇソドム-Yは。メギドはバベルの暴力の象徴。つまりオリジナルはあれをメギドで壊したいから生かしてるんですよぉ。ってこれも憶測ですけどねぇ! 自分で憶測をやめようって言いながら、やってしまいましたぁ!」
ダメだ、話にならない。質問を変えないと……このままじゃ無駄な会話が続く。
「メギドを反射するって言ったよね? なら、他の兵器なら壊せるってこと?」
「はい、もちろん。だからあなたも飛べるんですぅ」
飛べる? ああ、もうわけがわかんないや。
「それにしてもソドム。痛みはないんですかぁ?」
「え……そういえば」
今の私はサードステージのはず。なのに、なんでこんなに普通にしていられるんだろう。
「まぁ、いまさら驚くことではないですかねぇ。痛みの具合が変わることなんて、今日にはじまったことではないでしょうからぁ。それに、そのナノマシンはレベルがあがれば痛くなくなるように設定されているみたいですしぃ」
ああ、そっか。私、なんか成長しているんだね。良い方向か悪い方向かわからないけど。
「で、戦いますかぁ?」
「うん、もう戦ってないと落ち着かないし、やるよ」
なんだろう、この適当な私の気持ちは。本当にこんな理由で戦ってていいのかな? 相手は……あのソドム、ドクターの大切な人なのに。でもさ、私が今喚いてどうなるの? あの子を救う方法があるなら、ドクターがとっくにやってるよね? なにも言わないってことは、もう、私が殺すしか――――。
「なーに考え込んでるんですかぁ?」
「別に……。もういいでしょ? 私はさ、戦うために生まれてきたみたいなもんなんだから、はやくやらせてよ」
「聞きましたぁメメメス? 盗み聞きしてないで、そろそろ出てきたどうなんですぅ?」
「え……」
振り向くとそこには……。
「ソドム……本当に行くのか?」
なんでメメメスが……聞いてるの?
「うん。だってさ私今壊したくて壊したくて仕方ないんだ」
ずっと気がついてた。この破壊衝動は抑えきれるものじゃないって。それを受け入れちゃえば精神汚染なんて止まるって。だからさメメメス、もう止めないで。もう、遅いんだよ。私、もう認めちゃったから…………自分がそういうやつだって。
「私は……」
「うひひ、謝らないでね。メメメスで止めれることじゃないんだよ」
「それでも私はっ! おまえが戦うなら……一緒に戦いたい! なぁ、ラヴちゃん私にもなにかねぇのか!」
「はいはいはーい! 注目ぅ!」
ラヴちゃんが机の上に、大きな紙を広げる。まって、話を進めないで。気持ちがついていけなくなる。
「決戦兵器モラルタ。私の愛機を材料に、ソドムの体に装着するように魔改造した航空兵器ですぅ。まぁジェットつきの羽みたいなものですねぇ。武器は実弾に、発射口を兼ねた大型ソード。どうですかぁ? エクいと思いませんかぁ?」
え……なにそれ……それを、その紙に描かれているものを私につけるつもり?
「これ、監視用に全天球カメラを搭載しているんですけどぉ、それはソドムからは見れないんですぅ。で、当然見て指示出す役が必要なんですがぁ、できれば頭の回転が速い人がいいんですねぇ。私みたいに賢いって意味じゃなくてぇ、クロックアップ的なぁ」
クロックアップ? まさか、博士が前にメメメスに打った処理速度向上剤を……。
「私は自分にあんなヤバイもの打ちたくないですしぃ、ドクターはそんなに頭回る人じゃないですしぃ。どうですぅ、メメメス。やりますぅ?」
「まっ――――」
「ああ、やるぜ。私はもうソドムを一人にしねぇ」
「メメメス……」
それ、前にも使ってたやつだよ? 無理したら、脳に影響があるんだよ? 今のメメメスはクローンじゃないんでしょ?
「止めるなよソドム。これはおまえが止められることじゃねぇんだ」
私の視界がカラーに戻る。ああ、痛い。すごく体が痛い……。




