178:青い空
黄色の薬を飲めば気持ちが落ち着く。オレンジの薬を飲めば眠くなる。そんな生活をしていたら、あっと言う間に一週間が過ぎた。
「そういえば、こっちのラヴクラインはどうだった?」
「うひひ、いい人だったよ」
「そっか。よかったぜ」
メメメスは、あの髪が長いラヴクラインがラヴちゃんだって知らない。
「じゃあ待ってるぜ」
「うん」
診察室の扉は軽い。
「ラヴちゃ……あれ?」
髪が短い。ラヴちゃんこの一週間の間に、髪を切ったのかな……いや……これは違うラヴクラインだ。しかも私の知ってる人。
「ねぇドクター、こんなところでなにしてるの?」
「あらぁ、ソドム。ドクターには態度が大きいんですねぇ」
「そ、そんなこと……ってラヴちゃんもいるんだね」
ラヴちゃんの髪は、長いままだった。
「ソドム。誤解しないでほしい。これは結果としておまえの治療のために私はここに……」
「本当にそうなの? また戦えって言いにきたんでしょどうせ」
ドクターの一言目は、だいたい気を使いすぎたせいで出た嘘みたいなものだ。
「それはそうなのだが……。ソドム、おまえはある程度戦闘していないと自我が保てない。精神汚染はじっとしているのも危険なんだ」
「あーはいはい。だから、また戦えってことでしょ?」
「ああ。戦いながら治療を進める。それが一番良い道だ。だから戦う相手を選んでくれ。治療用の戦闘ロボットか、実戦か」
「は?」
さすがの私も怒ってしまう。だってさ、実戦とか言われたら仕方ないよね。だってここでの生活は、リディアさんが用意しれくれた大事な生活。なのに……いきなり横から入ってきて実戦に出ろとか……。
「もうドクター、ソドムは馬鹿なんですからぁもっとはっきり言わなきゃダメですよぉ! リディアたちは、ディスクリミネータへの素材提供者を黙らせるのに失敗したって! いやいや、正確にーはぁー、この前のミッションは成功はしたんですけどねぇ。また、別の提供者が出てきてぇ、そっちはどうしようもなかったんですねぇ!」
「え……」
「だからぁ、あなたに助けに行かせてあげたいってぇ、ドクターが言いだしたんですよぉ!」
「ねぇ、詳しく教えて! リディアさんたちは無事なの――」
「病院ではお静かにぃ!」
ぐ……、ラヴちゃんの拳やっぱり重い…………。
「げほっ……助けるに決まってるじゃん……」
「じゃあ決まりですねぇ」
「あれ……ちょっとまって、ドクター、新兵器はどうしたの? リューリーが使うんじゃなかったの?」
「ちゃんと渡した。だが新たな提供者は航空兵器を……」
航空兵器……って…………。
「そうなんですぅ。リディア達は無事ですよぉ。今の戦闘も間違いなく勝つでしょうねぇ。相手は本体じゃないから新兵器を使えば余裕余裕ですぅ」
「どういうこと?」
話が、わからない。頭がぐるぐるして気持ちがぞわぞわする。
「でも問題は本体ですねぇ、本体はなんと、空を飛ぶ兵器とくっついちゃったんですぅ!」
「空……」
私は飛ぶものと戦う方法を知らない。リディアさんたちは――?
「はい、空ですぅ! 地上で交戦中のところを上からズドン! そんなことやられたら、手も足も出ずアウトですねぇ!」
そんな……リディアさんの強さは、なんの意味もないってこと?
「ねぇ、そんなものを渡したのは誰なの? 誰なの!」
「ここですぅ。都市Z」
「ならっ!」
「ダメですぅ。この街の中でこの街の支配者と戦っても勝ち目はない。それにそれは裏で行われていること、そう簡単には届きません」
じゃあ、どうしたらいいの? リディアさんたちは……ナターシャさんは、リューリーは……みんなはどうなるの!
「航空兵器は全部で二十五機。一ヶ月以内に倒さなければバベルは都市Zに対し、メギドを使用すると言っている」
「ここに…………? この街にはメメメスがいるんだよ?」
ああ、ドクターの顔……本当のこと言ってる雰囲気だね。どうなのかな? 違うのかな? ああ、もうイライラする。
「……いいよ、私が全部壊してあげる」
もうそれが結論だ。それが結論で、結論だ。そう思った私の肩に、ポンと手を置いたのはラヴちゃんだった。
「なに?」
「この話、仕組まれてる感あると思いませんかぁ?」
「は?」
「この話には裏がある。誰かがあなたを自分の思い通りにしようとしている……そんな、強い意思を感じますねぇ。子供相手だから通るという、強い思い込みも」
まさか……。
「博士はそんなことしないと思いますよぉ。あの人はもっとかしこい。ねぇ、ドクター?」
「わ、私を疑うのか」
「あなた、妄想の中にだけある現実から外されているくせに、今回やけにはりきってますよねぇ。なにを隠してるんですぅ?」
ドクター、なにを考えてるの。どうしてそんなに苦しそうな顔をしてるの? ねぇ、今日はなにを隠してるの?




