177:黄色の錠剤
なんか体をペタペタ触られて、冷たい器具で胸の音を聞かれ、いくつか質問に答えて……。
「え、これで終わり?」
「はい。とりあえず今日から寝る前に、このオレンジの錠剤をニ錠のんでくださいねぇ。あとぉ、気分悪いなぁとか感情がブワーッとなるなぁなんて時は、こっちの黄色い錠剤を。これは一日二回までですぅ」
「えっと……うん」
オレンジ色の小さな薬と、黄色いちょっと大きな(でも小さい)薬をもらう。
「また一週間後に来てくださいねぇ」
「うん……」
「どうしたんですぅ?」
「こんなんでいいの?」
薬で治るなら……もっと早くくれればよかったのになんて思ってしまう。
「それは抑える薬、メメメスを怪我させたらいけませんからねぇ。あなたの治療カリキュラムはまた別、ただ準備に時間がかかるのでぇそれは一週間後からですぅ。ま、言うなればこの薬はそれまでの、ただのつなぎですねぇ」
「そっか。ありがとう――――ラヴちゃん」
「どういたしましてぇ」
私が部屋から出ると、メメメスは廊下の椅子に座って小さな端末で動画を見ていた。でも私を見つけるとすぐに見るのはやめて「おつかれ」と言ってくれる。
「メメメス、待たせてごめんね」
「気にするな。私が好きでついてきてるんだ。さ、飯でも食って帰ろうぜ」
帰り道に食べた小さな卵が何個も浮かんだラーメンは、とても…………美味しかった。(メメメスが言うには、ハウス系って種類のとても歴史あるラーメンらしい。)
そして、その日の夜――――私はメメメスを大声で責めた。
「どうしてまた動画見てるの! うるさいよ! そのせいでっ……そのせいで私はっ!」
私が悪夢を見て汗だくで目覚めた時、隣でメメメスが動画を見ていた。そこから聴こえるのは――夢で聞こえた嫌な声と同じ声。そうだよ、その動画のせいであんな夢を見たんだよ! 横でそんなの再生するからっ、寝てる私の耳に入って――。
「たまたま再生されちゃって……ごめんな」
「たまたま? たまたま動画が再生されるなんてないでしょ!」
「いや、このサイトはたまに広告の動画が流れてきてさ、触っちゃうと……」
「はぁ?」
メメメスは言い訳する、音量をゼロにしてなかったからとか、そういう言い訳を。ねぇ? そこはごめんねじゃないの? 音量をゼロにしておけば動画が流れても、音は出なかったってことでしょ? じゃさ、普通そうしておくよね? それを忘れただけだよね? っていうかそもそも――――――――。
「それ嘘だよね? メメメス病院で動画見てたじゃん! 動画好きなんだよね? ねぇ?」
なんで適当なこと言うの? 私は悪夢に苦しんだんだよ?
「そうだ、ソドム薬をもらっただろ? あれを――」
「私がおかしいっていうの? メメメスが謝らないのが悪いのに?」
ああ、違う。メメメスは謝った、何回も謝ってた。私が怒鳴って、そのごめんねを吹き飛ばしただけ。
「ごめん……悪かったよ」
ほら、小さい声で言ってるでしょ? ごめんねって。
「なにがごめんなの? わかんないよ!」
でもさ、それって本当に謝ってるのかな? ただ私が怒ったから、言ってるだけじゃないのかな?
「んっ」
なっ……メメメス……なに……なんでキスを……。
「んぐ……ケホッケホッ」
「誤解しないでくれよ。おまえに薬を飲ますのはこの方法しか――――」
口移し。危うく突き飛ばすところだったよ……。でもそうしなかった私は……怒ってるのに冷静なの? え、なにそれ? どういうこと? 怒ってるふりをしてたってこと? ねぇ? 私はなにがしたかったの?
「あはっ……あはは」
「お、おい、どうした?」
「なんでもない。ごめんね、メメメス。はぁ……なんでいつもいきなりなっちゃうんだろ」
「仕方ないさ、それが精神汚染なんだろ? ゆっくり治していこう」
今度は泣き出す私。ああきっと、明日からしばらく普通の日が続くんだろうな。そしてもうおかしくならないのかもって安心しかけた時に、またこうして壊れちゃうんだ。完全に壊れきれない癖して。




