18:zombie聞こえますかzombie
翌日、私はメールで呼び出された。あの、黒き狂気兇器強姫さんに。
「やあ、随分と派手に名を売ったものだな」
「ラヴクライン、お久しぶりですわ」
ついてきてくれた博士が長いレンズのついたカメラを持っているのは、これから起きることを撮影するため。
「あの、黒き狂気兇器強姫さん……」
「狂姫さん、でいいですわよ」
「狂姫さん、今日ってやっぱり……」
「ええ、メールで伝えたとおりゾンビを使ってあなたのトレーニングをいたしますわ」
指さしたのは、ゴモラシティを囲う壁。うわぁ、ゾンビめっちゃいる……。
「あの、その前に……」
「ああ、どうしてわたくしがあなたを誘ったか――ですわね?」
そう、私を呼び出したのはまがりなりもAリーグチャンピオンなのだ。私とは格が違いすぎる、何か裏があると思うのは当然のこと。
「そんな事どうでもいいですわ。とりあえずあなたを強くしないと……さすがにDリーグの選手とわたくしでは釣り合いませんもの」
「そんな……ふがっ!」
うわ! びっくりした! いきなり顔を掴まないでくださ……え、何だこの感じ、下手に動いたら首をひねられそうな……。
「ふふ、怖いんですわね。まぁいいですわ、いきますわよ」
「安心しろソドム。こう見えて狂姫は信頼できるやつだ」
「こう見えては余分ですわよラヴクライン。そういえば、今日のレンズはなんですの? 随分と古そうですわね」
やっぱり狂姫さんって博士と仲がいいんだ……。さっき「ラヴクライン」って名前で呼んでたし。
「ああ、M42フルマニュアル300mm単焦点F5だ。それにズームタイプのテレコンバーター。重ねるとかなり暗くなるが、私が改造したカメラならISO感度を爆上げできるからな――」
「さて、カメラオタクは置いていきますわよ」
「おい、おまえだってカメラオタクだろう」
うう、なんか二人を見ていると気持ちがもやもやする。
「そういえばラヴクライン、あなたはまだあの説を推しているのかしら?」
「推しているも何も、あれは私の説だ」
ううううう! なに、なに、なに。私のわからない話ばっかり!
「ああ、すまないソドム。おまえにわからない話をしてしまったな。私はな、ゾンビ化の原因をウイルスとは思っていないのだよ」
「博士!」
あ……博士が私の気持ちに気がついてくれて……声をかけてくれて……嬉しくて……思わず大きな声を出して喜んでしまった。狂姫さんちょっと笑ってるし……。はぁ、恥ずかしいなぁ。
「ゾンビは環境が破壊され生きにくくなった世界に適合するために人間が進化した姿。私はそう思っているのだよ」
「それだとゾンビ相手にコード404が出ないことが、説明つかないですわ」
「進化した後は別物だろう」
うむむ、なかなか難しい話。狂姫さんと博士の関係が余計にわからなくなってきた。でもなんか、もやもやはしなくなってきたかな。すごく仲良しってわけでもなさそうだし。というか私、こんなことで嫉妬してどうする! え、嫉妬? 嫉妬じゃないよ! ああああ! もう! きっと博士と二人でいる時間が長いから三人とか慣れてないんだよ。あれ、これだと博士のことを好きじゃないみたい? 好きだよ。でも恋愛とかじゃなくて、でもあれ、嫉妬ってそういう関係じゃなくてもしていいもの? うう、よくわかんな――――。
「まぁその話は今はいいですわラヴクライン。ソドム、そろそろ行きますわよ。おーい! ゾンビ! 聞こえますか! ゾンビ!」
「なんですかその呼びかけ」
「一応まだ人間性が残っていないか確認しているんですわ。もし人間性が残っているのが混ざっていたらコード404が出て困りますわよね? さて……問題ないようですのでソドムちゃん全力GO! ですわ!」
ゾンビに向かって全力GO……………………うう、全力で嫌だよ。




