172:客観の街
私はメメメスの死の真相を知った。(正しくは、メメメスのクローンが殺された理由だけど。)
「私は……こんな自分を知られたくなかった」
「うーん……」
今のメメメスの住んでいる都市Zみたいな……えっと、えっとそうだ、外都市! 外都市の人たちが持っている権利は、私達が命がけで戦ってきた暴力的地下遊戯の観戦権。クローン観客席に観戦用クローンを座らせてみたり、愛を込めて金を放り投げる一分間でお金を投げたり、実況を楽しんだり、会場のモニターに好き放題コメントを出したり。つまりメメメスは……そちら側の人間だったってわけ。
「私はすごく好きだったんだ、暴力的地下遊戯を見るのが。でもある日気がついた、これを見ている私達は糞だって。安全圏から人の苦痛や悲しみを……!」
暴力的地下遊戯には、いろいろなスタイルがある。それは、できるだけ多く観てもらうために、ゴモラシティそれぞれが工夫をこらしてがんばっていたらしい。ああ、だから私の街は理不尽なルールにしてたんだね。暴力的地下遊戯がいっぱいあるなら、あれくらいしないと目立たないってことでしょ?
「軽蔑するだろ?」
「そうかなぁ、私はあんまり気になんないけど……。なんだかんだ私、好んで試合に出てた時もあったし。しかもさ、お金くれてたのも外都市の人なんでしょ? コメントで応援してもらったこともあるよ? それに私も試合の中継見たことあるし!」
もしこの話をしている相手がメメメスじゃなかったら、私は同じ返答をしただろうか?
「そう言ってくれると救われるぜ。でもあの時の私は、見ているだけの自分に耐えられなかった」
「それで、メメメスはクローンを作ったんだよね?」
「ああ。プレイ中……なんて言うと嫌な言い方かもしれないが、その間は私が本当にゴモラシティの住人だと錯覚するように設定したクローンを送り込んだ。それから本当の私は、クローンを遠隔操作するために、このマシンに繋がれて寝たきりだ」
それに気がついて、狂姫さんがメメメスを殺した。それでメメメスはこの部屋で目覚めて、今までの毎日は遠くでクローンが体験したことだったって知った……というより、思い出したのかな? っていうか、すごい機械だね。人が入るカプセルみたいなやつだけど……なんかすっごく高そう。
「どうして怒らねぇんだ……私はおまえにひどいことを」
「怒ってほしいの?」
ひどいことなのかな本当に。設定したとはいっても、あの時のメメメスは本当に私と一緒にがんばろうって思ってくれてたわけだし。
「あ、じゃあさメメメス! なんか美味しいもの食べさせてくれないかな? 私お腹ペコペコで」
「そ……そんなんでいいのか?」
「そんなんでじゃなくてそれがいいの! ほんとお腹すいてるんだもん!」
正直なところ、面倒くさくなっちゃったってのはある。だってさ、もういいじゃん。メメメスが無事だったんだから。私のこと、覚えていてくれたんだから。
「よし、出かけるぞソドム! とっておきを食わしてやるよ!」
「え、ちょっとまって! 家で食べるんじゃないの?」
あ、あの街に……出るの? 私、リディアさんたちと一緒にいた時の服のままだよ?




