170:あなたは他人の指を折れますか?
そうだ、指を折ろう。それなら治せるだろうし……。
「い……いい」
嫌がってるのが、怖がってるのが振動で伝わる。この子……すごく、すごく力弱い。
「そんな力の入れ方じゃ折れないぞ? どうした、貴様の力なら簡単にいけるはずだろう?」
「リディアさんってさ……子どもの笑顔のために戦ってるんだよね」
確かそんな話をしていた気が……。
「そうだが? だからこそ私は、躊躇なく子どもの指を折ることができる。よし、やれないなら手本を見せてやろう」
「ダメ!」
「なんのつもりだソドム」
ほんとに、なんのつもりなんだろう。
「…………」
まずい、リディアさんが怒ってる。そうだよね、これは仕事だもん。やるべきことをちゃんとできない子は――――。
「………………はは! はははは! やはり子どもはいいな、純粋に矛盾している。素晴らしい、やはり守る価値のある存在だ」
「え、え?」
な、なんで笑ってるの?
「ソドム、貴様は私の隊をやめろ。この仕事は向いていない」
「そ、そんなこと!」
「ならこいつの右手の指を十本にできるか?」
「う……でも、私行くとこなんて」
リディアさんがしゃがんで、私を優しく抱きしめる。
「選択肢がない、だからやるしかない。そういう生き方もあるだろう。だが貴様には選択肢がある、想像以上にな」
「え……」
「私の古巣である都市Zと交渉した。そこで生きろ。戦うための競技もある、殺害禁止の安全なやつがな。だが選手は強い、貴様の衝動もじゅうぶん消化できるだろう」
そんなこと、突然言われても。
「ゴモラシティじゃないから、メギドにやられることもない。あの辺鄙な土地なら、ディスクリミネータの影響も受けない。これがじゅうぶんな条件だということは、貴様でもわかるな?」
「リディアさ……」
「聞き分けろ。貴様がここにいつづけるなら私はいつかおまえに強要する、私と同じ暴力を使えるようになれと」
「じゃ……じゃあ、ディスクリミネータは誰が倒すの?」
そうだよ、だって新兵器は私じゃなきゃ……。
「リューリーだ。あれは貴様と違って暴力に長けた大人だ、Sリーグ選手という条件も満たしている」
「…………」
「これで貴様のいる理由はなくなっただろう。さぁ、上にいけ。迎えの車がまっているぞ」
リディアさんは私を離す。
「ああそうだ。安心しろ、この子に拷問はしない。誘拐で事足りる話なのでね、ちゃんと交渉が終わり次第ご帰宅願うよ」
それ以上私には、なにも言ってくれなかった。
「お待ちしておりました、ソドム様」
「…………よろしくおねがいします」
私は車に乗り、リディアさんから離れていく。涙が溢れないのは、私の心がどこかで安心してしまっているからなのだろうか。




