167:むかしむかし
地下室から上に。うわ……暖かい……。
「体が冷えたじゃろう」
「うん……オババは大丈夫?」
「ヒッヒッヒッヒ、オババはいつ死んでもおかしくないからのう、体温低下には慣れとかんとのう」
オババジョーク! 笑えないよ!
「スープ温めてやるからまっとれ」
「あ、ありがとう!」
とは言ったものの……なんかこの家で鍋を見ると嫌な感じだな。うん。(でもスープはとてもおいしかったです。)
「ねぇ、二人はどこに行ったのかな?」
「なんじゃ、聞かされとらんのか。それなら話すわけにはいかないのう」
う、なにこの仲間はずれ感!
「でもまぁ安心するんじゃ。ちゃんと帰ってくる。今回リディアがおぬしを連れてきたのは――っと、これも言ったらいかんやつじゃな」
気になる! よ!
「ところで、精神汚染はどうじゃ? ナノマシンの調子も安定しとらんのじゃろう?」
「え……」
「儂は職業柄ナノマシンを触るからのう。ちょっと見てやろう」
え、また地下室行くの? はぁ……せっかく温まったのに。
「ちゅ……注射!」
「ちょっと血を抜くだけじゃ」
「痛っ……くない?」
「あたりまえじゃ。儂じゃぞ?」
超上手い! でも血なんて抜いてなにするのかな? うわ、なにあの機械……覗くとこあるからカメラかな? 前に見た双眼鏡カメラに似てるけど……うーん、ちょっと違う? なに? なにしてるの?
「ふむ……かなりの濃度じゃな。これだけ体内に在中させるのはなかなかエクい技術じゃ」
オババもエクいって言うんだ……。結構メジャーなのかなこの言葉。
「大戦型……に似とるのう。だがどうも違う。これを作ったのは相当なやつじゃな、まぁ、大方ラヴクラインじゃろうが」
「オババは博士……じゃなくてラヴクラインを知ってるの?」
「知ってるもなにも、この世界で科学をやる上でラヴクラインを知らんやつは一人もおらんぞ。まぁ知ってる程度は違うがのう」
知りたい――――。
「聞きたそうじゃな。で、聞いてどうするつもりじゃ?」
「え……」
「おぬしのラヴクラインを探すか?」
「えっと……」
オババがいきなり私の頭を撫でる。ゴツゴツした手、でも優しい。
「ラヴクラインが生まれたのはもう随分と前のことじゃ。オババが生まれるもっともっと前。存在年齢だけで言えばクソババアじゃな」
なんか撫でられてると眠くなる。
「元は人類初のオリジナルなきクローン。完全新規のデータだけでつくりあげたもとなき生命体じゃ。元もなく、基もなく、素もなく、本もなく、因もなく、許もない……と言われとったのう。まぁ、素は材料という点ではあるし、因もちゃんとあるのじゃが。どうも当時の科学者集団に、詩人が混ざっとったらしいのう」
「難しい……」
「そうじゃな。まぁそのへんは理解できんでもよかろうて。というかそもそも、今の話は字で書いて見せんと伝わらんからの。ヒッヒッヒ。そんな話をしてしまうなんて、ババアはボケとるのう」
話を、そらしてるのかな?
「ねぇ、オババもう少しわかりやすく――」
「そうじゃな。ラヴクラインの問題は、因。それが作り出された理由じゃ。正確には、量産された理由かの。量産されなければあやつらは、クローンではなく人工生命体というカテゴリーのはずじゃからな。もとがなかろうが、そう呼ばれるということには理由があるということじゃ」
量産。確かに博士、ドクター、ラヴちゃん……いっぱい同じ顔の人がいる。だから……ラヴクラインは、クローン。
「なんでそんなにいっぱい作ったの?」
「一言で言うなら資源のため。移植、燃料、実験体。様々な物事に利用するために倫理をこえる必要があった。簡単に言うと人間に対してはできんことをやるために創られた、人間に似た別物じゃ。もとがなければ、理論上は人間扱いしなくて済むからのう」
「そんなこと!」
「おいおい、暴れんでくれよ? オババはか弱いぞい」
「あ……ごめんなさい」
なんでだろう。今私の中で怒りが……吹き上がった。




