159:拳で分かち合え、友情っぽいものを
歯を食いしばり、打ち合う。距離をとってすぐ詰める。また距離をとって、すぐ詰める。歯が折れたら即吐き出す。次に殴られた時、口の中をさらにやりそうだから。
「おまえ……治るのズルいのだ!」
「え、そんなこと言われても」
「治るの止めろ! じゃないと不公平なのだ!」
いやいやいやいや、止めろって言われても……。
「じゃあさ、戦うのやめる?」
「隙ありなのだ!」
「!」
「ウソダマシ成功なのだ! 治っちゃうものに文句を言っても仕方ないのだ!」
うぐ、重たいのをお腹にくらっちゃったな。はぁ……目がチカチカする。
「ぐあ!」
「頭を潰せば勝てるのだ! オラオラなのだ!」
どうしよう、上手いっ……打撃だけで反撃させないようにしてくる。
「キャハハハハ! リューリーちゃんを甘く見るからなのだ! おまえの負けなのだ!」
うん、私負けてたかも。これが、リングだったらね。
「ナターシャさん、お願い」
『はい』
「のだ? ぎゃっ!」
少し離れた崖の上。つまりナターシャさんが私達を見ているところからの、狙撃。
『すいません、頭を狙ったんですが外されちゃいました』
「う……ぎ、ぎ……卑怯なのだ」
「私達は軍隊だよ?」
「た、確かにそれなら卑怯じゃないのだ……」
私は私の勝手な意地で負ける訳にはいかない。はぁ、それにしてもSリーグ選手ってやっぱり化物なんだな。ナターシャさんの特性の銃でも、ちょっと肩の肉が抉れただけ。
「ねぇナターシャさん。頭撃ったら倒せそう?」
『うーん、だいぶ内部骨格を強化してあるっぽいので、この銃では火力不足かもしれません』
「冷静にリューリーちゃんを倒すことを相談するのはやめるのだ!」
「え。だって戦ってるし……」
「確かにそうなのだ……っと隙ありぃ!」
うあ、やっぱり強っ……。
「んぎっ! だから撃つのをやめるのだ! 卑怯者!」
私達の周りには敵も味方もいない。巻き込まれたら危険だから。(だから狙いやすいんだろうね。)
「ねぇリューリー。リューリーはさ、さっきからなにがしたいの?」
思わず質問しちゃった……。いや、だって明らかにやる気ないでしょ。
「うーん。おまえがいたからなんとなく襲ってみただけなのだ」
「…………まだ戦う?」
「なんかやる気削がれたからもうやめるのだ。お茶でも飲ませろなのだ」
「はぁ?」
はぁ?
「じゃないとここから全力で走り去って、おまえの仲間を何人か殺すのだ。おまえが止める前に十人は殺れるのだ」
「う…………」
『わかりました。お茶をごちそうしましょう』
「な……ナターシャさん?」
というわけで妙な展開になりましたとさ。




